11月14日、投開票が行われた福岡市長選挙は、自民党・公明党が支持した高島宗一郎候補が現職の民主党推薦吉田宏候補に6万5千票あまりの差をつけ圧勝した。高島候補の勝利は、ほとんどのマスコミがそれぞれのデータから予測しえたが、ここまでの完膚なき勝利は、ある意味誰も予想しえなかったものである。
今回の市長選について、ある記者は語っていた。「不人気投票みたいなもの。魅力的な候補が一人もいない。普通ならば、現職二期目の吉田候補が優勢になるのだが、自らの不徳によって支持者に捨てられた吉田氏の陣営は空洞化している。高島候補は、滑舌はいいが中身はない。木下候補は佐賀市長であったことが悪材料であった。植木候補(途中で選挙運動を放り出した)は、身を寄せた山崎広太郎氏の影が強く、清新なイメージとはほど遠い。高島氏に決まるだろうが、これからが大変だ」と。
今回の市長選で誰もが唖然としたのは、植木とみ子候補が突然選挙運動を中止したことだ。それだけでも噴飯物の事態であったのに、本人がブログで「強い圧力があった」と語ったものだからさあ大変。しかも後見役の山崎広太郎氏は韓国に逃亡してしまったので結局、「強い圧力」の正体は闇のなか。
しかし、事情通の間では麻生太郎元首相の暗躍があったというのが定説だ。というのも選挙期間中、北九州小倉北区選出の中村明彦県議が、ほぼ事務所に常駐しており、高島氏が演説会や街宣活動に出かける際は常に同行していたからだ。中村明彦県議といえば、麻生太郎氏の福岡県での直系県議、いわば織田信長と木下藤吉郎とでもいうべき関係で評判。事実、10年近く前に中村明彦県議の後援会長であった社団法人の理事長が訴えられた裁判では、「行列のできる法律相談所」に出演している北村弁護士事務所(麻生太郎の友人としても有名)を選任し、敗北必至といわれた裁判を見事に逆転させた。
今回の市長選挙勝利で躁状態になった中村明彦県議は、福岡県知事選挙に向けて「麻生太郎元首相の意を受けた」といいながら、小川洋氏(朝日新聞、西日本新聞が自民党推薦の知事候補にほぼ決まったと報じた)の擁立のために党内の意見の取りまとめもせずに暴走。もっとも意見をとりまとめる立場に公的にも私的にもいないのだから、暴走になることは当たり前ではあるが、すっかり県議仲間からは嫌われてしまったといわれている。
高島陣営の執行部でもないくせに「麻生さんから言われている」という葵の御紋をたてに、地元の県議や市議の迷惑顔を無視して、高島候補にべったりと寄り添った中村県議。さらに今夏の参議院選挙で当選した大家敏志参議院議員も大物の応援に同行、当選報道のテレビでは、高島候補の真後ろに陣取りテレビに映り続けた。麻生色がプンプンする高島事務所の雰囲気はこうして醸し出された。植木とみ子候補の撤退は、麻生太郎と山崎広太郎の二太郎会談によって決まったという話が囁かれるのも当然のこと。だからこそ本人の意向を無視して決まった「敵前逃亡」に憤懣やるかたない植木氏がブログで真相の一端を暴露してしまったのだ。
このことで評価が一変したのが、麻生太郎元首相。「漢字も読めないおバカさん呼ばわりされていたが、麻生太郎の先見力は凄い。ゴルゴ13が愛読書だけあって、仕掛けることがダイナミックだ。福岡の市長を選ぶ選挙が植木辞退を区切りに一気に自民か民主かを選ぶ国政並みの選挙になってしまった。これが高島圧勝の原因」とは東京の評論家の弁。やや持ち上げすぎの感もあるが、たしかに今回の福岡市長選挙で麻生太郎の底力を感じた政治のプロは多かった。
【勢野 進】
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