高島市長誕生をもっとも歓迎しているのが、福岡県の麻生渡知事をはじめとする執行部。吉田市長時代には何かとぶつかることの多かった福岡県と福岡市だが、これからは蜜月関係になると期待している。実際、高島当選の報に接した麻生知事の表情は、あと数カ月で知事の座を去る人間とは思えないほど明るく、晴れ晴れとしていた。コンベンションセンターや福岡空港拡張など区切りをつけたかった幾多の問題を解決する途が開けたのだから当然といえば当然だが。そういえば決定していないのに自らの後継として知事候補の小川洋氏を、知事本人が付き添って連合や九電に紹介しているとの話もあり、県・市に院政を引く野望があるのではという話も陰で聞かれる。案外知事の笑顔の裏には怖い思惑があるのかもしれない。
両自治体の対立を根拠として、停滞していた市・県共同の事業が推進されることになれば、いくらかは活力が出てくることになる。福岡県庁では、これで筑豊・筑後担当行政機関といわれてきた汚名を返上することになると語る職員もいるのである。
この事態に頭を抱える人たちがいる。
「福岡市はこれまで政令指定都市として、県とは区別された独立王国としての立場を守ってきた。ところが行政のアマ、素人を自認する市長がやってきて、しかも麻生知事の行政に学ぶなどと言ってしまった。県による福岡市占領だ。それに厄介なのは麻生太郎元首相の肝入りで北九州の中村明彦県議が高島市長の後見役のような立場に座っていることである。北九州から福岡市に出張ってこられてはたまらない。
ある福岡市議会議員のつぶやきである。実際、公共事業は利権につながる。この利権とは贈収賄に直結するという意味で使っているのではないが、選挙などを中心とした議員活動に、市長との親密度が寄与することは明白な事実である。この利権が地元から奪わたのではたまったものではない。
選挙期間中、表にでなかった山崎拓氏の思いも同様だ。比例復活も果たせず無役になった山崎拓氏は、参議院選挙を巡るゴタゴタで、国民新党からでも出馬したいとつぶやくなど、政治の風を読み違えてしまったこともあって現在は謹慎中のような身分。かつては福岡王国に君臨し権勢を誇っていたのに、いまや福岡市はライバル麻生太郎氏の天下となった。だが、ただ黙っている山崎拓氏ではない。市議を使って、福岡市での権益を守るために陰に陽に干渉するだろう。とはいえ、最近では福岡七社会のトップであり、財界のオピニオンリーダーである九州電力からもあまり相手にしてもらえなくなった山崎拓氏。せいぜいゲリラ部隊的な役割しか果たせないのではあるまいか。
ともあれ高島市政は福岡県との協力関係を基本にすることで、これまでの市政とは一味違うものになる。だが、その先に何が待っているかはまだわからない。
【勢野 進】
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