ひとつの噂がある。麻生太郎元首相と古賀誠元幹事長という福岡を代表する二人の政治家が今夏会談し、力を合わせて福岡県の課題を実現していこうということで一致したというのだ。市長選挙での自民党推薦候補の高島宗一郎候補が圧勝した裏にはこの力が働いたという。吉田支持に形式上回ろうとしていた財界主流・福岡エスタブリッシュメントの流れを押しとどめたのも、この二人の合力があったからこそである。昨年の衆議院選挙大敗北でボロボロになった福岡市の自民党が、今回の市長選挙では組織の体をなしてきたようにみえたのも、この合意が大きかった。
だが、それぞれは政治家としての基盤を異にする。高島新市長のもとでの政策決定過程に関与することによって、色合いの違いが出てくるのは当然のことだ。しかも、二人が一致したということは、前回書いたように仲間外れにされた山崎拓氏の妨害を招くことになる。民主党政権下での野党市政というだけでも様々な障害があるのに、たえず種々の対立が惹起されることになるのだ(すでに特定の国会議員、県会議員を名指しした怪文書が乱舞している)。
高島新市長が、「あくまで決定は自らが行なう」と宣言したことに危うさを感じる周辺の支持者も多い。こども病院問題では「再見直し」を周囲との相談なしに発言して一部支持者から顰蹙(ひんしゅく)をかった。市長誕生のために尽力した市会議員は、どうも高島はそう簡単に言うことを聞かないかもしれない、と予感しているという。
高島の顧問気取りの中村県議にしても、市長になった高島氏に撥ね付けられる可能性はある。そもそも地元の北九州市で民主党推薦北橋市長に対立候補を立てることもせず、福岡市に来てもらっては迷惑という声が福岡市選出の県議や市会議員から公然とあがっていては、そう簡単に市長室に入り浸りとはいかないだろう。ましてや県庁と福岡市役所をつなぐパイプ役などできっこないのだ。
高島新市長が師匠として指名した麻生知事にしても先走った知事候補小川擁立活動が仇となり、自民党県連から総スカンを食うことになりそうだ。さらに選挙に全力を投入、これで福岡の新盟主と評価された麻生太郎氏もはしゃぎすぎで道を外しそうで心配だ。あまり知られていないが、新市長の懐刀といわれている高島シンクタンク・九大グループにしても、学者のひ弱さを感じさせる。要するに周りはガタガタなのだ。
高島新市長自身、テレビ各社の討論会で政策に対する素人ぶりをさらけ出した。「36歳がうちの社長か」と自嘲気味に語る局長は、腹のなかでは吉田宏前市長よりもっと扱いやすいと思っているようだ。役人天国はつつがなく今日を生きる、という太平楽な道につながる。発展の活力が失われる。
限られた予算のなかで最も効率的に投資をしながら、国際都市福岡を築くことは至難の業に等しい。この難題に挑むことが市長の椅子を射止めた者の使命なのである。前吉田市長の最大の欠点は、市長になりたかっただけの人物だったということである。吉田側近は「民主党に対する逆風がきつかった」と敗北の理由を語ったが、本当の理由は福岡市の将来に対する吉田宏氏のビジョンの欠落にあった。幾多の困難と複雑な人間関係を乗り越える資質が高島新市長にあることを祈りたい。
【勢野 進】
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