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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (4)
経済小説
2010年12月11日 08:00

 オリジナリティ、バイタリティ、といった言葉は黒田の性格を説明するのにふさわしい。しかし、それらの要素と同じくらい、黒田は「慎重」でもある。
 新しいことを始めるときには、まず少しだけ試してみて、その後それを徐々に拡大する、という方法を取った。
 創業したときも、当初は、サラリーマンとして工務店に勤務しつつ、週末にコンサル事務所を営業するという2足のわらじでスタートした。それは昭和59年11月のことであり、これが後のDKホールディングスの創業である。しかし、そういう事情だったことから、DKホールディングスには後々まで創業記念日というものは存在しなかった。

 黒田は、コンサル事務所として、顧客がアパート経営に成功できるように、用地の取得の世話をし、建物の設計、施工、完成後の入居者募集等をそれぞれの専門業者に仕事を振り分けた。銀行からの資金の借入も斡旋した。そして、結果として地主がアパート経営に成功したら、コンサル報酬をもらうというやり方で事業をスタートした。事業計画をお客に説明し、お客にアパートの事業意計画を説明するために、今のように簡単になる前のパソコンを習得し、アパート経営にまつわる税制も勉強した。当時中古のクラウン2台分の価格がしたパソコンを購入するために夜の繁華街でアルバイトもした。
 アパート経営にまつわる税制といっても、基本的には建物の減価償却費を活用するという単純な話だ。これに、お客の状況によっては相続が絡んだり、不動産の買換えに伴う優遇税制が絡んだり、という程度である。しかし、当時は富裕層の所得税は最大70%という時代だったので、黒田の真摯な姿勢もあって、口コミでお客がお客を呼びビジネスは大いに儲かった。一人で年間1億円以上を稼ぎ、置き場のない現金を冷蔵庫にしまっておいたこともある。

顧客がアパート経営に成功できるように、用地の取得の世話をし... やがて黒田は、アパート経営のコンサルから、物件の供給、建築、管理を全て自社でできる体制を目指した。コンサルが繁盛し会社を設立できる資金ができたから、ということもあったが、やはり発注者の立場になりたい、というのが動機だった。つまりアパートの建築ひとつとっても、コンサルの場合は、お客と工務店の間を取り持つにすぎず、発注者の立場にあるのは黒田の事務所ではなくお客であった。それでは、黒田がコンサルとして良かれと思って工務店に施工方法の変更を依頼したとしても、工務店としてはお客からの話でなければ聞けない。

 そこで黒田は、コンサル事務所を株式会社黒田事務所に改組する一方で、新たに不動産の売買と管理をする事業会社として株式会社黒田ビルディングを設立し、自ら社長に就任した。平成3年のことである。
 これにより、黒田事務所では土地を持っているお客に対して、建物を企画提案し、工事を請け負う建築請負業を手がけ、黒田ビルディングでは、お客から完成した物件の管理を請け負う不動産管理事業を手がけることとなった。平成バブルが過ぎ、地価が落ち着く頃には、年に1棟・2棟と、黒田ビルディング自身で土地を仕入れて、そこに上物を建てて出来上がった商品としてアパートを売ることを手がけはじめた。これが不動産販売事業である。

 黒田の創業間もない頃の成果の一つであるアパートを見てみよう。
 福岡市早良区藤崎。天神から地下鉄で5駅の瀟洒な住宅街のなかに、そのクリーム色のアパートはある。
 敷地は南北に走る道路から、細長く奥まった長方形である。つまり南側に面している辺が長い。しかし、隣地の住宅がギリギリに建てられていて、残念ながら日当たりはいいとはいえない。そこに普通の羊羹式のアパートを企画しないのが黒田である。
 その建物は、上から見ると凹の字の形をしている。へこんでいる面が南側である。つまり、黒田は細長い長方形の土地に、凹型の建物を立て、凹の字の上のへこんでいる面にバルコニーを設けたのだ。なぜそうしたかというと、そうすることで、南側にパティオ(中庭)のような空間が生まれる。そうすることで、1階の居室にも直接の日差しは当たらないまでも、空を仰げるようにして居室を明るくしたのである。
 建物は4階建で、一見すると気づかないが、よく見ると天井がかなり低い。これも、建築規制線ギリギリのところで多少無理してでもフロアを増やして、家賃収入を増やそうという狙いからきたものである。このように黒田は、知恵と工夫を絞って、その土地に合った、少しでも収益性の高い賃貸マンションを開発することを目指してきたのである。

 やがて平成9年、黒田はこの黒田事務所と黒田ビルディングを合併してDKホールディングスと名づけ、新興不動産会社として急成長し、上場へと駆け上ってゆくことになる。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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