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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (6)
経済小説
2010年12月13日 11:04

 倒産時に常務営業本部長であった江口則之は、岩倉より3年年下である。こちらは、高校を卒業後、厨房機器メーカーに就職したが、より刺激のある職場を目指して平成5年、20歳のときに入社した。黒田は、岩倉には総じて甘かった反面、江口には、口調厳しくののしることも多かった。
 しかし、人の輪のなかに入っていく能力は、江口がピカイチであり、上場後は東京や札幌の営業所の立ち上げに取り組み、成果を収めた。不動産業、特に売買業は非常に人的ネットワークに依存する業界であり、既存の業界人と深い信頼関係を築かなければ、いい土地を仕入れることなどできない。そういう業界で、DKホールディングスが東京・札幌の二つの都市でいくつもの物件を開発するところまで漕ぎ着けたのは、江口の貢献が大であった。
 黒田は、江口に若い頃の自分の姿を重ねていたのであろう。それゆえに叱責も厳しくなった。しかし、あたかも自分の息子のように可愛がったのは岩倉よりも江口であったように見える。
江口は、営業マンらしいいい目をしていた。見知らぬ人ばかりの東京に行って... 江口は、営業マンらしいいい目をしていた。見知らぬ人ばかりの東京に行って、業界の集まりでかくし芸をして注目を引き付けるという度胸もあった。
 反面、企業の幹部としては情緒的に過ぎる面があった。部下の指導についても、江口の手元で作業する若手を可愛がり高い評価を与えるいっぽう、直接知らない部下については、あまり関知しないという面があった。新しい、楽しいことに目が向きがちで、開発する物件の意匠の改善に執念ともいえる情熱を傾けたが、それでどのように収益を上げるのかという点については同じ程度の情熱は傾けなかった。重大な課題に行く手をさえぎられたときに、黒田会長から罵られない限り、正面突破を諦めてしまう小心でもあった。退任後も、顔の広さで元社員の就職を世話する等、総じて、「いい人」であったということはいえる。
 黒田は、そういう江口の性格を知り、もっぱら不動産販売営業の切り込み隊長として使った。平成13年には取締役として東京支社を立ち上げ、その後東京支社を岩倉に譲った後、平成17年には、札幌営業所の立ち上げにコンバートされた。さらに平成18年には、本社に戻り、賃貸管理部長を兼務しDKホールディングスの収益部門全ての責任者という位置づけとなった。平成20年には、岩倉新社長の下、営業本部と管理本部を置き、江口が営業本部長に就任したが、経営幹部として部下をマネジメントするというよりもいち営業マンとしての活動にこだわったのは、相変わらずだった。

 ただし、倒産時には不動産販売系の取締役が江口と稲庭の2名いたが、お互いの相性が悪く、チームワークには不満が残った。

 倒産時に常務営業本部副本部長兼建築部長であった中井俊也は、昭和42年生まれで、岩倉より1歳、江口より2歳年上であった。高校を卒業後の昭和60年に、原田工務店に入社し、3年間、黒田と同じ釜の飯を食っている。その後別の道を歩むが、その後平成11年にDKホールディングスに入社し、再び黒田と机を並べることとなった。中井は一級建築士であり、ゼネコンへの工事の発注と施工管理、そして発注管理者の常として、取引先政策や品質基準を担った。
 中井は、身の回りの整理を心がけており、中井が担当した建築部では常に書類や図面がしっかりと整理されていた。仕事には集中し、極力定時で帰るというスタイルを実践し、部下にも徹底していた。いっぽう、あくまでも自分の守備範囲は工事の監理である、という一線を崩すことがなく、あくまでも営業企画から工事予算をもらい、その範囲で品質管理を行なうことを本分とし、追加工事や仕様変更に伴う対応も、あくまでも営業企画の仕事であるとして、建築部としては、あくまでも会社から金を支出する方向で対応した。また、福岡の震災や建築士による構造計算書の偽装問題等、工事に関連して発生する課題には総じてスピーディに対応した。
 いっぽう、上場会社の経営幹部たる発注責任者として求められること、たとえば、新規出店エリアでの取引先政策をどうするか、原価管理が手付かずな不動産管理事業の発注をどうしてゆくか、とか建築コストの削減をどのように仕組み化するか、といった骨太な課題に対して、より重点的に取組んでいればよかったのに、と思う。
 平成20年には、本部制導入の際、黒田は、経営幹部として建築工事だけでなく上記のような骨太な課題にも取り組むことを期待して中井を営業本部副本部長兼建築部長として処遇した。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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