NET-IB NEWSネットアイ

ビーニュース

脱原発・新エネルギーの関連記事はこちら
純広告用VT
カテゴリで選ぶ
コンテンツで選ぶ
会社情報

経済小説

天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (12)
経済小説
2010年12月21日 10:17

<サブリース契約の更改問題>

 新興企業の上場直後の燃え尽き症候群、というのは、単にリーダーや現場が慣れない上場準備作業に疲弊する、ということにとどまらない。それだけであれば、休日をとってリフレッシュを図ればいい。実は、上場直後の燃え尽き症候群は、単なる疲れではなく、上場後に求められる水準に、会社の人材がいつまでも到達できない、という問題がその本質である。
 上場準備時に行なう分厚い申請書類の作成、中期計画及び年度予算の編成と進捗管理、取締役会や稟議制度の運営、諸ルールの明文化・規程化、業務フローチャートの作成と業務効率化、企業会計原則に則った会計への転換、監査法人による会計の監査の導入(証取法監査)など。
 これらは確かに、手間のかかる作業ではある。経理部や経営企画部のみならず、各部横断的に推進しなければならない。しかし、それは一時的な問題であるにすぎない。むしろ、中小企業の経験しかない古参の人材が、このような上場会社の仕組みに適応し、主体的にPDCAのサイクルをまわしてゆくことが難しいところに問題がある。

 何でもオーナー社長の指示を受けて動く中小企業の職場環境に慣れた者には、自ら課題を認識し、それを資料として整理のうえ取締役会などに上程して会社としての意思決定を得てゆくことや、各部署長が中期や年度の方針に沿って、計画を立て、稟議制度等を活用しながら予算を執行してゆく、というような作業は大きなストレスであった。

 サブリース更改問題も、そのことが如実に表れた例である。
 DKホールディングスは、サブリース更改という重大なアキレス腱を抱えていた。当初のビジネスモデルは、個人の富裕層向けに賃貸マンションを開発し、1棟丸ごとで販売して、その管理を受託する、というものであった。1~3億円の賃貸マンションを次から次へと売ってゆくDKホールディングスの販売力は大いに注目された。
 しかし、その販売力は、サブリースというドーピング薬によって底上げされていると批判されても仕方がない状態であった。
実は、上場直後の燃え尽き症候群は、単なる疲れではなく... サブリースとは、建物を管理会社が一括して借上げることである。借上げた建物は、管理会社が貸主となって入居者を募集する。こうしてオーナーに対しては、部屋の稼働率に関係なく、常に一律の賃料を支払い続ける仕組みである。似たような仕組みに賃料保証というのもある。DKホールディングスは、なんと満室時家賃の90%でのサブリースをオーナーに提案し、それを武器として物件を売っていたのである。
 満室時家賃の90%というのがいかに非現実的な水準かは、少し考えてみたらわかる。一般に単身用の物件の場合、ひとりの入居者がひとつの部屋に住む期間は2~3年である。仮に24カ月住んだ入居者が退去し、その後3カ月の間、空室状態が続いたとしたら、その27カ月間の家賃収入は24カ月分である。24÷27=0.88。3カ月間空室が続くと、月平均の手取り家賃は、契約家賃の88%でしかなくなり当社のサブリースは赤字になるのである。

 確かに、サブリースの開始当初は、新築物件でもあり、比較的高い家賃で満室になる。物件間競争が少なかった平成12年くらいまでは、家賃の下落も比較的少なく、このためサブリースしても利益を確保できた。しかし、平成19年に調べたデータでは、ほとんどの物件が新築後3~5年で赤字に転落していた。もちろん、サブリースの契約書には2年ごとの家賃改定を明記してあった。しかし、当社では平成16年くらいまで、この問題に手をつける幹部が誰もいなかったのである。

 この問題に手をつけるべき賃貸管理担当の森村取締役は、山陽監査法人や内部監査担当者、管理部長や社長室長からこの問題に度重なる指摘を受けつつ、何ひとつ改善しようとしなかった。平成15年に、私が黒田社長から指示されて賃貸管理部の方針を検討し、何としてもやらねばならぬと無理押しすると、そのしばらく後に自ら退任していった。その後、黒田社長は建築担当であった男性のベテラン鮎元取締役を森村取締役の後任に据えた。しかし、この人も、しぶしぶオーナー担当チームを編成したものの、その運営を自ら積極的に舵取りすることなく、経営コンサルタントに任せっぱなしだった。

 以上のような経緯からも、中小企業時代からの古参の人材が、上場会社の取締役として経営上の課題を自律的に解決してゆくという役割に耐えられなかったことがわかる。このような状況なので、当然に不動産管理事業の収益は見る見る悪化していった。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

≪ (11) | (13) ≫

※記事へのご意見はこちら

関連記事

powered by weblio


経済小説一覧
純広告VT
純広告VT

純広告用レクタングル


IMPACT用レクタングル


MicroAdT用レクタングル