平成19年3月期中間期(平成18年9月中間期)にDKホールディングスは、不動産管理事業に属する固定資産に対して、減損会計を適用し4,700万円の減損損失を計上した。固定資産の減損会計の意味するところは、営業キャッシュフローを確保できないような事業は継続する合理性に欠けるので、当該事業に供している固定資産はゼロ評価して損失を計上しなさい、というものである。
このことに対する営業系役員の受け止め方は「何で急にそんなことを言い出すのか」というようなもので、一種の拒否反応であった。しかし不動産管理事業の収益の悪化は突然に始まったものではないし、固定資産の減損会計の適用も突然に導入されたものではない。
他の会計基準変更がそうであるように、今回も事前の周知期間が取られた上で導入されたものである。山陽監査法人の会計士からも事前に説明があり、賃貸管理部に対して当該事業の改善計画の提出を求められ、私と共同で計画を策定する等、事前の取組を行なっているのである。早くも平成17年9月中間期には、山陽監査法人に対して不動産管理事業の収益改善計画を提出した。そのときも、管理部長より社長室長に計画策定の依頼があり、意を受けた私が当時賃貸管理部を担当していた担当の鮎元取締役と内容について協議、策定し、鮎元取締役の計画実行に向けての決意を確認のうえ取締役会で可決したものである。
しかし、その翌年になると、不動産管理事業は本社経費を按分負担させると営業利益が赤字であり、明らかに減損適用不可避の水準であった。適用を回避するためには、営業利益を2~3年で確実に黒字転換できる現実的な計画の提示が必要だった。しかし担当の鮎元取締役は、山陽監査法人を説得しうる資料を提出することは不可能と諦めてしまったため、私は黒田社長にも報告の上、減損適用を決めざるを得なかった。
私は、減損適用を受け、これ以上事態を放置することができなくなり、今度こそ不動産管理事業の収益構造を抜本的に改革するべく、平成20年3月期に入ってすぐ、「契約更改プロジェクト」を立ち上げた。進捗管理を強化するために外部コンサルを入れつつも、基本的には自力で改革を図ることとした。このプロジェクトでは、私は、1年間で全てのサブリース契約を、賃料相場に連動して自動的に更改する仕組みに切り替えることを目指し、全体工程と各部門別の役割分担を定め作業を推進せしめた。
プロジェクトをスタートする前に、私は過去5年間の全入居契約のデータをシステムより抽出してもらい、それを加工して、当社管理物件の家賃の推移を把握した。それによると大名、警固、薬院等、福岡市内でもごく都心部の物件では家賃相場は概ね横ばいで、なかには家賃を上げて再募集している物件もあった。しかし高宮、大橋、室見といった、それよりも都心から離れた物件は、入居者が入れ替わるたびにじわじわと家賃が下がっていることが示された。
最初のプロジェクトミーティングでは、そのようなマーケットトレンドに加え会社及び不動産管理事業の収益の推移等について概要の説明を行なった。そのうえで、サブリースの契約更改が明らかに必要である旨を相互確認することで課題の共有化を図り、以降対策を進めた。
私は不動産管理事業の収益性が改善しない最大の障害は、執行能力の限界にあるとみていた。執行能力の限界といっても、別に責任者の鮎元前取締役や江口常務の能力のことを言っているのではない。
不動産管理事業は当社の事業のなかでは、いわば傍流であったが、その担当業務はオーナー向けの営業、仲介会社を通じた募集活動、入居審査、管理物件の営繕・清掃、退去受付・改装、債権管理というように多岐にわたり、これを賃貸管理部(後にマネジメント部)が担当していた。これらを一手に対応するために、賃貸管理部がDKホールディングスの従業員の半分を抱えていた。すなわち賃貸管理部長がオーナー・入居者・仲介会社・下請会社等の多岐に渡る相手先と対応していかなくてはならず、そのためのマネジメント業務に多くの時間が割かれる。しかし部長の業務は、黒田社長から降りてくる対オーナーのクレーム処理等で大半を割かれてしまい、自律的なマネジメントにより改革を推し進めていく環境ではなかったのである。これは誰が賃貸管理部の部長であったとしても同じ結果であったろう。
そのため、平成20年4月より組織を変更し、不動産管理事業のうち営繕・改装等に係る業務を建築部に、対オーナー営業を営業部にそれぞれ移管することによって、原価管理は建築部、契約更改は営業部という明確な役割分担を行なった。
この際、対オーナー営業の人件費を不動産管理事業のPLから、販売事業に経費を移すのか、という批判もあった。しかし私は当初より、そのような工作で一見不動産管理事業が黒字であるように見せかけて山陽監査法人を欺こうなどとは考えていなかった。あくまでも営繕・改装も対オーナー営業も不動産管理事業の一部であると考えていた。主眼は、あくまでも幅の広すぎる業務を他部署と分担することで執行力を確保することにあったのである。管理会計上の収益・費用対応については、いずれ業務体制をきちんと確定させたときにやり方を固めようと考えていたのである。
〔登場者名はすべて仮称〕
(つづく)
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