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直撃インタビュー

元マイクロソフト(株)日本法人社長・成毛眞氏に聞く(5)
直撃インタビュー
2010年12月31日 13:00

小さな成功と失敗にこだわるな
大人げない大人で逆境時代を生き抜け

<変わるメディア論壇 流行らない電子書籍>

 ―これからソーシャルメディアを使った論壇というのが、さまざまなかたちで活発化するということを、佐々木俊尚さんも上杉隆さんもおっしゃっていました。

 成毛 たとえば、ブログの書評のあり方も変わってきています。私はその本の良い点だけを書くようにしています。ネットはそういう方向に行くと思います。新聞や雑誌などの書評は褒める一方でけなしたりしていますが、今後は甘い評価のバイヤーズガイドに近いものになっていくでしょう。

 それで失敗しているのが、たとえばアマゾンなどがあります。あれは良い点と悪い点を両方書いており、買ってはいけないことは分かっても、では何を買ったら良いのかを一般の人は分からなくなります。

 これから起こりうるのは10人くらいのソムリエ、もしくは博物館のキュレーター(学芸員)みたいな人がいて、それぞれの観点で良いものだけをオススメするというブログが成立するでしょう。たとえば科学の本が読みたいと思ったときに、「成毛眞のブログを読めば何かある」と思えばそこに行けば、その人がオススメする本が載っているわけです。

 そういうサイトは検索では引っかからないので、ビジネス的にはどうなるか分かりませんが、その結果としてどの本がどのくらい売れるのかということに対する影響力はCGM(コンシューマー・ジェネレイテッド・メディア、消費者が内容を生成していくメディアのこと)の比ではないでしょうね。
 
 ―最後に、電子書籍化の流れについてお聞きします。大手出版社やマスメディアはあまり前向きな姿勢を示していませんが、これからどうなっていくとお考えですか。

 成毛 電子書籍は日本ではそれほど流行らないでしょうね。アメリカで流行っているのは、新書がないからです。本はハードカバーが基本で持ち運びにくく、印刷技術もたいしたことないため、キンドルなどを使った方が便利だし読みやすい。でも、日本には持ち運びしやすい新書という形態がすでに存在します。だから、電子書籍が売れれば売れるほど、それに比例して「新書って便利だよね」と皆が感じて売れるようになるでしょう。

 そういえば、『もしドラ』(『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』の略)を発売するとき、ダイヤモンド社の担当編集者に「電子書籍と同時に販売した方が良い」と話したことがありました。そうしたら、たちまちベストセラーになりました。仕組みは単純で、電子化したことで露出が多くなり、本の方が売れたからです。

成毛 眞 氏 つまり本というのは、今どんなものが売れているのかということを測定するのがものすごく難しい商品で、そのときに起こるマーケティング上の問題として、新刊本の認知度が著しく低いということがあります。だけど1冊の売上は小さいから、広告費もかけられません。

 しかし、無償で書名だけでも出る宣伝方法というのは限られています。それが一番適しているのが電子書籍ということになるのですが、なぜならツイートされやすい、ソーシャルメディア上で話題に上りやすいからという特徴があります。そうした方法で本が売れ出せば、3年後か5年後かは分かりませんが、あとから皆が追従してくるでしょう。

 なぜそんな簡単なことが出版社側で思い浮かばないのかが不思議です。雑誌は著作権の問題が難しいですが、単行本はすぐにできるでしょう。

 電子化というのは国別に本の文化の特徴があって、どこかの国で流行ったからといって、そう簡単に別の国で流行るものでもないと思います。とは言え、マーケティング方法のひとつとして電子書籍化は進んでいくでしょう。

(了)

【大根田 康介】

<プロフィール>
成毛 眞(なるけ まこと)成毛 眞(なるけ まこと)
1955年北海道札幌市生まれ。北海道札幌西高等学校を経て、1979年中央大学商学部卒業。アスキーなどを経て86年にマイクロソフト(株)入社。91年より同社代表取締役社長。2000年に退社後、同年5月に投資コンサルティング会社(株)インスパイアを設立し、代表取締役社長に就任。08年より同社取締役ファウンダーに就任。現在、スルガ銀行(株)、(株)スクウェア・エニックス・ホールディングスの社外取締役や、さまざまなベンチャー企業の取締役・顧問などを兼職。早稲田大学客員教授も務める。『大人げない大人になれ!』(ダイヤモンド社)、『本は10冊同時に読め!』(三笠書房)、『成毛式実践マーケティング塾』(日本経済新聞社)など、著作・連載多数。


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