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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (11)
経済小説
2010年12月20日 13:51

<堅実成長路線への転換>

 いっぽう、黒田社長は、岩倉専務に、3年後300億円という売上目標を示していた。平成15年3月期の売上高は140億円台であったため、3年で2倍以上ということになる。
 しかし、私が入社した時点の現実として、来期売上を現状水準に保つだけの仕入もできていなかった。3年後300億円を達成するためには、今期どれだけの土地仕入をしなければならないかの計算もなされていなかった。

ビルの開発 不動産販売業(開発業)は、土地を仕入れ、そこに建物を建て、商品として完成させたうえで売却することとなる。10階建てのマンションであれば最短で12カ月はかかる。そして、物件の売上に占める土地原価の比率は約4割。従って、来期二百億円の売上を計上しようと思ったら、今期末までに80億円分の土地を仕入れなければならない。
 ところが、今仕入れてある土地だけではそこまでの売上は上げられない。それではと、土地の仕入れのピッチを上げると今度は、金利が膨らみ利益が圧迫される。この状態では、いかに売上を伸ばしても、いっこうに自己資本が積みあがらない。粗利益率が約12%と低すぎるからである。
 
 DKホールディングスは、顧客に利回りの高い物件を供給することを経営方針としていた。その基準は、表面利回り(満室家賃収入÷土地建物取得価格)が8%というものである。これを実現しようとするとどうしても売価を抑えざるを得ず、そうすると粗利益率が12%程度とごく薄くなった。それでも3%程度の経常利益率が出るのは、賃貸マンションの1部屋ごとを分譲するのではなく、個人富裕層に1棟まるごとで販売する戦略をとっているため、1戸1戸を売っていく分譲と比較して極めて少ない人数で事業を運営できるからだった。
 
 それにしても、12%の粗利益率では、とても3年で2倍の売上などおぼつかない。

 私は、岩倉専務と作戦を相談のうえ、売上伸び率と粗利益率をいろいろに組み合わせてシミュレーションを行った。売上の伸び率を高く、粗利益率を低くするといつまでたっても自己資本比率が改善せず、それでは銀行融資の枠によって成長が頭打ちになることもわかった。そのさじ加減次第であったが、売上伸び率15%、粗利益率15%なら、まずまず財務を改善しながら成長できる、という心証を得た。そのことを黒田社長及び岩倉専務に説明したところ、黒田社長は、「よし、それであれば伸び率15%でいこう」とすんなり決断した。物件販売の粗利益率も15%を目指して漸次改善していくことを決めた。

 こうして、堅実成長路線のレールが敷かれた。
 次年度は、15%方針に基づいて堅実な予算編成を行ない。達成の確実を期することとした。 最初から、正直に高すぎる目標を掲げ、その結果、下方修正をするのでは市場からの信頼も得られないからである。それよりも、堅実な計画を掲げ、あわよくば、それを上方修正しようという姿勢のほうが得策であることを私は力説した。そのために、売上の0.5%程度のバッファを販売管理費中に予備費として組み込み、利益達成をより確実ならしめることとした。
 上場したばかりで、営業幹部に予算の概念が身についているとはいえなかったが、これも、事業計画をわかりやすく解きほぐしていった。つまり、3年後に不動産販売で200億の売上を達成しようと思ったら、当社の物件は平均すると1年の工期が必要で、売上に占める土地原価の割合は4割程度であったため前年のうちに80億の土地の仕入れが必要ですね。それでは、80億の仕入計画に対してあといくらの土地を買う必要がありますか、というように。
 目の前の目標が明確になれば、現場はどんどん走ればいい。その後のDKホールディングスは上場以来、売上・利益とも過去最高の更新を続け(利益については、子会社の清算をした年度は減益)、比較的堅実な経営方針の新興企業というイメージを作り上げることができた。

 ここで、その実績を振り返ってみたい。

 平成13年3月期(その年度中の平成12年11月にTOSDAQに上場)
 売上 96億、経常利益 3億、予算対比 未達

 平成14年3月期
 売上 99億、経常利益 3億、予算対比 未達

 平成15年3月期
 売上 149億、経常利益 1億、予算対比 未達

 平成16年3月期 この事業年度より、堅実予算に転換。
 売上 160億、経常利益 3.0億、予算対比 ほぼ達成

 平成17年3月期
 売上 199億、経常利益 6億、予算対比 上方修正

 平成18年3月期
 売上 230億、経常利益 12億 予算対比 上方修正

 平成19年3月期
 売上 260億、経常利益 15億 予算対比 上方修正

 平成20年3月期
 売上 270億、経常利益 15億 予算対比 ほぼ達成

 今にしてみれば、DKホールディングスの成長ストーリーの前半は、そのビジネスモデルの独自性が成長の原動力であったといえる。しかし、最後の2年については、ファンドバブルの波に乗ってしまった面もある。
 そして、平成20年3月期は、3年連続の上方修正についに終止符を打ち、予算を「ほぼ達成」したというところにとどまったのである。そして、期末には売り残した物件もある。安く仕入れられた物件はもうなく、地方都市の物件や利回りの低いオフィス用地が多かった。そういうなかで、まだ契約済みは1棟のみ、工期遅れは続出している。そのうえ、この半年の仕入物件は、銀行からも、建築資金の融資実行は、顧客との売買契約締結後とする旨の条件を付されていた。そんな状態で平成21年3月期予算を増収増益で果たして組めるのか。それでも、20年1月の時点では、まだ100年に一度の変調が迫っているとまでは考えていなかった。
 「成長の限界」。この言葉が私の脳裏をよぎったのは、それゆえである。

(つづく)

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