<もがきあがくほど感動と達成感は大きい>
―よく「味は吉野家だよね」という声を聞きますが、そこが他社と比較して1番のアドバンテージだと思います。
安部 品質本位制、そして「うまい」を追求する姿勢を貫かなければ生き残っていけません。経営とか事業というのは、過去から未来への連続性のなかに今があり、たとえ減収という結果になったとしても、それはたまたま今だけのことです。刹那的に過剰反応すれば、歩むべき道を見失うことになりかねません。
かけがいのない存在であり続けるためには、オリジナリティがある価値を持っていることがとても大事ではないでしょうか。変えてはいけないこと、どんどん変えていかなければいけないこと、この分別を間違ってはいけません。
そうは言っても、事業環境が悪化してくれば、自分の長所と相手の欠点を比較して独善的になってしまうこともあります。社会から孤立した存在になり、破綻すると「世の中が悪いから」という言い訳をしかねない。ですから、客観的に自分を戒める指標が重要ですね。
―吉野家の顧客は、とてもコアなファンの方が多いようです。これだけデフレが続きますと、価格で引っ張られる傾向がありますから難しいところですね。
安部 3年レンジでまったく成果を生まなければ、独りよがりになります。軸がブレないにしないとダメですね。振り返ってみますと、当社は長らく順風満帆で、増収増益を高い水準で続けてきた時代もありました。しかし、本当の意味での面白味や感動があったのかと言えば、そうでもない。もがきあがいたうえで出てきた成果ほど、感動があり、達成感があります。
節目、節目で極限的緊張に追い込まれることは、そのときは大変な思いをしますが、長い目で見れば非常に良いことだと思います。今は再建への3合目から4合目、2010年期末までが5合目、残りは2011年期の宿題です。緊急対策としての課題はまだ山積しています。
【文・構成:吉村 敏】
<プロフィール>
安部 修仁(あべ しゅうじ)
1949年福岡県生まれ。福岡県立香椎工業高校卒業後、プロのミュージシャンを目指し上京。音楽活動のかたわら、(株)吉野家でアルバイトとして勤務。その後、正社員として同社入社。77年、九州地区本部長を務め、80年の同社倒産後、83年に取締役として経営に参画。88年常務取締役、92年代表取締役社長に就任。07年グループ改組、10年4月より現職。主な著書として、東京大学・伊藤元重教授との共著『吉野家の経済学』(日経ビジネス人文庫)などがある。
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