熊本市から北へ20kmほど行ったところに菊池市があります。2005年に周辺３町と合併して今の菊池市となりました。菊池市には、阿蘇山に源を求める菊池川、白川という２つの水系が流れ、それぞれ特徴ある肥沃な土壌を形成しています。豊富で美味しい水が流れる菊池渓谷を訪れた方も多いことでしょう。
　この地域の土壌の特徴は、水はけの良いスポンジの地層（砂壌土）であり、大量の地下水をろ過、貯留する天与の仕組みがある、と言われいます。この土壌を活用して米・花卉・施設園芸が盛んであり、畜産も盛んな地域です。
　JA菊池は、こうした阿蘇の伏流水が湧き出す菊池水源と、肥沃な大地が広がる自然環境から生み出される環境志向の農畜産物を、「きくちのまんま」というブランド名で商標登録を2000年に行い、農畜産物のブランド化を図ってきました。
　「きくちのまんま」というブランドは、いわばファミリーブランドであり、認定された主要産品にだけ使用が許されており、菊池地域のイメージアップに役立てようとするものです。ファミリーブランドというのは、個別ブランドを家族のように束ねてそのブランドの総合力を発揮させるものです。
　このように、JA菊池では「きくちのまんま」を認定する基準整備や品質管理委員会・審査委員会の設置などの取り組みを行なってきましたが、08年度から農水省の農林水産物・食品地域ブランド化支援事業の指定を受けて、「きくちのまんま」ブランド基準の整備、各委員会のあり方の見直し、環境に配慮した独自の栽培マニュアルに基づいた農畜産物の生産体制を整えて、さらに消費者に信頼され、愛着を持ってもらえるブランドに磨き上げることとしました。この事業プロデューサーを筆者が３年間にわたって務めている、というわけです。
　なお、「きくちのまんま」の意味は、日本語で「ご飯」という意味があるほか、イタリア語の「お母さん」という意味もあり、「おふくろの味」を思い出してもらうことを狙ってのネーミングです。
　JA菊池がこのように地域資源のブランド化に取り組むのには、次のような理由があります。先にもふれたようにこの地域は、自然環境、農業環境に恵まれており多彩な産物を生産するが故に、逆にこれといった特色を打ち出せない、○○といえば「菊池」といった産地イメージが確立できていないことが悩みの種であったのです。
　というわけで、この事業では、肉牛、生乳、水田ゴボウ、ニンジンの４品目のブランド化に取り組むこととしました。
　当事業を推進するに当たって、消費者調査を行ない菊池ブランドの浸透度などを測定しました。農水省の事業が3年間にわたり、事業推進のベンチマークを行なう必要があるからです。その結果ですが、「きくちのまんま」というブランドネームの認知率は、熊本市では約8割とかなりの認知度を得ていましたが、熊本市の次にターゲットとしたい福岡都市圏では予想外の低い値でした。これには担当者もがっかり、といった様子でした。大消費地である福岡都市圏での浸透を図ることが大変重要であることが認識されたのです。
　このため、例えば、水田ゴボウでは、ゴボウチップス等の加工品を作るなど地域名産品となるような商品開発の取り組みを行ない、加工品販売で福岡都市圏でのブランド浸透を図ろうとしました。ちなみに、水田ゴボウとは、全国的にも類をみない、水田に作付けされるゴボウなのです。水田で生育したごぼうは、食感がやわらかく、風味の豊かさが特徴的となっています。
　また、ニンジンですが、JA菊池管内は、人参に適した阿蘇火山灰群の赤土土壌であり、人参臭さが少なく、甘味があり、ベータカロチン含有量が豊富な品種を生産しています。このニンジンを07年度から、｢旨キャロ｣という取引相手先との共同ブランドで福岡市をターゲットとした展開を行なっています。これはたしかに、福岡市のスーパーマーケットで時々見かけることがあります。今後はこの人参を、「きくちのまんま」の｢旨キャロ｣として、さらに認知度を高めていくこととしています。
　このような地道な努力により、地域の産物を効率よく生産し、さらにブランド化を図ることによって高付加価値を生み出し、地域を豊かにし、地域のイメージ向上、地域のブランド化につなげようとしているのです。スーパーマーケットなどで、各地の生産物をよくみてください。ファミリーブランドがついているか、個別ブランド一本で表現されているか。買い物の楽しみも増えることと思います。

（株）地域マーケティング研究所
代表取締役　吉田 潔
福岡市中央区天神4-9-10 正友ビル5F
TEL：092-713-2121
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