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50億円資産めぐる遺言状真贋裁判―業界、地域名士が渦中に(下)
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2011年1月14日 09:00

 そこで姉の義弟には弁護士を通じて、母親がいかなる理由で株式売却したか、売買契約書の開示などを求めたが「一切応答なしでした」(T氏)という。そのため有効とされた2003年の遺言状を子細に検討。筆跡鑑定専門家、刀剣の銘を鑑定する専門家に筆跡鑑定を依頼。いずれも『遺言状』に書かれた文字は母親のそれではないという結論を得た。すなわち偽造されたものということで、先の03年の遺言は無効であること、さらに母親と姉の義弟との株式売買も無効であるとする今回の訴訟になったもの。
 
 これに被告側はどう応えるか。
 
 まず次男のA社社長は、取材申し入れから1週間後、会社の総務部を通して「司法の判断に委ねます」という返答。姉の義弟も「その件については容赦下さい」と、いずれも原告への反論はない。わずかに姉のYさんが、訴訟については「あんなデタラメなもの、バカらしい。私は関係ありません」としつつ、T氏について「入院中の母の見舞いにも来なければ、葬儀にも法事にも出ない。そんな人間の言うこと、誰が信用しますか」とやや感情的な反論。

 それについてもT氏は、「証拠資料にも提出した母の日誌にあるように、次男の私個人および私の会社に対する仕打ちにはずっと頭を痛めていました。とにかく名士気取りの次男はすべてを自分が仕切らないと気が済まない。葬儀だけは長男が喪主を務めて静かにやろうと話していたのに、『盛大に社葬でやる』と次男が出しゃばり、長男と私はそれぞれ別に葬送しました」と強く反駁する。たしかに、T氏がA社および金融機関や取引先を通じて相当の嫌がらせを受けてきたこと、それに対するT氏への同情は母親の日誌でうかがえる。
 
 1月に初公判を迎える今回の裁判、そんな肉親同士の感情のもつれまではともかく、偽造か否かの司法判断と同時に国税当局の動きにも注目だ。

(了)

恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。

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