2012年末までに東証に再上場しようとすれば、東証の上場審査基準では、その前年の決算(2012年3月期)が上場可否の判断材料となる。幸いにしてこの2011年3月期決算は、第3四半期(2010年4月~12月)までは黒字基調で、営業損益段階では1,600億円超の黒字になった模様である。2010年3月期が1,600億円程度の営業赤字だったから、わずか1年で差し引き3,200億円以上の損益改善が見込められたわけだ。
背景には、減価償却負担が大幅に軽減したり、赤字路線を大幅に削減したりするなど「倒産メリット」が大きかったとはいえ、JAL社内からは「再生は順調にいっています。再上場は夢ではありません」(広報担当者)と強気の声も漏れる。
ただし、上場主幹事を担う野村証券の担当幹部は「楽観は許されない」と言って、こう指摘する。「問題はたった1年間だけの決算を見て再上場を許していいのかという点です。最大の難題は、事業の継続性の可否にあります」。航空会社は、テロや事故、流行病などによって乗客数は大きく増減する。そうしたイベントリスクを考えると、たまたまある会計年度の業績が好調だからといって、一般の人が簡単に株の売買ができる上場を認めていいのか、疑問が残る、というのである。
再上場によって莫大な手数料が転がり込む野村でさえ、安易な再上場に慎重な姿勢であることは見逃せない。JAL社員の根拠なき鼻息の荒さとは対象的に、実はJAL関係者には再上場が果たして可能かどうか、いぶかしむ見方をとる人が少なくないからである。
当の出資者である企業再生支援機構の幹部も、そうである。ある機構幹部は「機構という監視役がいなくなると、JALはすぐ先祖返りする」と打ち明ける。出資者で、役員を送り込む機構の手前、おとなしくしているJALの生え抜き幹部社員たちは、いざ機構というお目付け役がいなくなると、再び放埓な経営に舞い戻りそう、というのである。海外出張、交際費、そして天下り。すでにその兆候はあるという。「最近退任したある役員は露骨に天下りポストを要求してきましたからね。もちろん『何を言っているのですか』と断りましたが、全然あの人たちは懲りていない」。そう機構幹部は打ち明けた。
JALを監督する国土交通省航空局も表向きはJAL再上場という基本方針は崩さないが、国内大手航空会社や海外の航空会社、航空関係に造詣の深い投資家などがスポンサーになる次善の策も考慮に入れている。つまり、支援機構が保有するJAL株式3,500億円を、別の大口投資家に転売するというシナリオである。支援機構の幹部もこう見る。「JAL再生機構のような新組織を設け、そこに転売するというのも1つの方策です」。要するに一種の先送り策である。
こんな声が漏れてくるほど、JAL再上場は容易ではないのである。
都心に潤沢な不動産を持ち、安定した首都圏の私鉄を運営する西武ホールディングスすら一向に再上場できないことから分かるように、JAL再上場は、そう甘くはなさそうだ。
【特別取材班】
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