<ジャーナリズムの役割 キュレーションの意義>
―ジャーナリストというのは、一種の情報を流す仕事でもあるわけですが、御著書のなかで「ジャーナリズムは権力監視装置としてよりも、それ以上にいかに分かりやすく情報を整理して世の中に伝えていくかが大事」と述べておられました。その部分をもう少し詳しくご説明ください。
佐々木 たしかに権力監視は大事だし、やれる人がやればいいのですが、日本ではジャーナリズムの本質は権力監視だと思っている人が異常に多いのです。それは違います。それこそ、科学やファッションのジャーナリズムは権力を監視しているわけではありませんから、本質はそうではない。結局、情報というのはフローとストックがあって、言い方を変えればコンテンツとコンテキストになります。
情報というのは、コンテンツ単体では何を意味するのか分からず、そこにコンテキストを与えてやることが必要になってきます。たとえば、「政府が尖閣諸島で逮捕した船長を解放しました」というのは、単なるコンテンツなわけです。それが日本の外交にとってどう影響するのか、それを考えるのがコンテキストなわけで、意味を付与して物語をつくるのがジャーナリズムではないかと思います。
IT業界で言えば、10年くらい前はアメリカの情報はほとんど日本に来ず、新聞や雑誌などで知るくらいです。当時は、アメリカに住み現地から情報を発信することにすごく価値がありました。ところが今は、はっきり言ってシリコンバレーに行く必要はなくなりました。なぜなら、シリコンバレー発のブログなどで情報が日々無数に更新されているからです。そういうのを読んでいる方が、ピンポイントで人に会うよりも情報量は多くなります。
つまり、1次情報を取るよりも、情報をフィルタリングして知ることが大事になってきます。これを「キュレーション」とも言います。
だから、コンテンツとコンテキストはどちらも同じくらい重要です。昔はコンテンツが重要だと言われていましたが、今のジャーナリストはコンテキストを同じくらい大事にする必要が出てきたということです。
―そのなかで、これから佐々木さんご自身はどのようなことに取り組んでいきますか。
佐々木 ソーシャルメディア上で情報がどのように流れているかというのが大きなテーマで、これは筑摩書房から『キュレーションの時代』という本を2011年2月に発刊予定です。あとはマスメディアがものすごく衰退し始めているので、メディア問題をもう一度きちんと捉え直したいですね。2009年7月発刊の『2011年新聞・テレビ消滅』では、主にビジネスの観点からメディアの移り変わりを書いたのですが、今度は言論の観点から見ていきたいですね。それを2011年後半の仕事にしようと思います。
【大根田 康介】
<プロフィール>
佐々木 俊尚(ささき としなお)
1961年兵庫県生まれ。早稲田大学政経学部中退。88年毎日新聞社入社。99年アスキーに移籍し、『月刊アスキー』編集部デスク。03年退職し、現在フリージャーナリストとして主にIT・ネット分野を精力的に取材する。総務省「グローバル時代におけるICT政策に関するタスクフォース」委員。「2011年 新聞・テレビ消滅」「Google グーグル」「電子書籍の衝撃」など著書多数。
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