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阿久根市長選、竹原信一氏が『対立』した相手の正体(下)
自立する地域社会
2011年1月13日 07:20

 「自分のためではなく社会全体のために働いてほしいという気持ちで投票されれば、政治家も自分をおいて社会のために働いたはず」という竹原氏の言葉は、決して阿久根市だけに限ったことではない。しがらみで動く票、低い投票率、およそ選挙に関しては多くの自治体が同じ問題を抱えている。
気勢をあげる竹原氏と支持者たち 決して私利私欲のためにやっていないことは、竹原氏がマスコミに袋叩きにされ、2度も市長職をクビになるに至っても信念を曲げない姿からうかがえる。さらに今ならば、泡沫候補といわれてもおかしくない小ぶりで質素な選挙事務所を見れば一目瞭然だ。自分のためにやっているのであれば、誰もがとっくにさじを投げるだろう。

 そして竹原氏は、Net-IBニュースの独占取材(別途、動画を更新予定)に応じ、「今回の選挙は市民が考えるきっかけ、将来の資源にしてほしい。結果はどうあれ、阿久根のためなら自分は道具にされてもいい」という本音を語った。
 当たり前のことをするのが当たり前ではない社会―。それを身近に感じることがあるはずだ。老人に席をゆずると、周囲から感心され、たいへんな感謝を受ける。道に落ちているタバコの吸い殻を拾うと「立派ですね」と言われる。
 市長の公約に市議会が真っ向から反対し、議論もなく否決する。約束を守るのは当たり前のことだ。しかし、その当たり前のことが通らない。じゃあ、どうするか。ある首長はやる気をなくしたうえに、せめて市長の椅子は守ろうと議会の顔色ばかりをうかがうようになった。公約違反のツケで落選したが、最大の犠牲者はその公約を信じて票を入れ、4年間、怒りとむなしさに満ちた時間をすごした市民である。

 今の日本は「公(おおやけ)のために」という精神を失ってしまった。そう考えると、竹原氏が『対立』した相手とは、議会でも市職員でも、ましてや市民でもない。『公がない社会』こそ、戦ってきた相手の正体なのである。
 「政治家も公務員も市民のなかから生まれます。市民全体が公のことをひたすら考える状態になれば、どのような人間が市長になろうが議員になろうが公務員になろうが良い社会になるんです」という竹原氏の演説には、本当に伝えたいメッセージが込められているように感じる。

 告示日、出陣式に集まった多数の支持者を前に上機嫌だった竹原氏。「市長選も回数を重ねるにつれ、集まる市民の数が増えてきた」と、昔からの支持者は感慨深げに語った。しかし、その出発点は、たったひとりのビラまき活動だった。

(了)

【山下 康太】

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