16日に投開票を迎える阿久根市長選挙は、「勝負の流れは流動的」と地元紙が報じている。それより先に発表された世論調査では、新人の西平良将氏(37)が若干リードとされていたが、有権者が支持を明確にしたがらないという傾向が強い同選挙の特性上、勝負はフタを開けてみるまで分からない。前市長・竹原信一氏(51)の支持者には、周囲の目をはばかりながら、人知れず応援している市民が少なくはないからだ。
阿久根市の首長選挙の行方は、全国から注目を集めている。特に、2月6日に市議会解散の是非を問う住民投票と市長辞任に伴う市長選挙がある名古屋市から、市議会リコール関係者の問い合わせが来ている。「阿久根はどうなるのか?」と―。
10日、名古屋市で『徹底討論 2・6ナゴヤ住民投票』と題して、公開討論会が開かれた。パネリストとして参加したのは、名古屋市長・河村たかし氏、名古屋市議会議長・横井利明氏、名古屋市議会解散請求代表者・平野一夫氏といった市議会解散をめぐる関係者。そして、市長選で民主党が擁立し自民党市議団も支援する民主党衆議院議員・石田芳弘氏、政治学や社会学の研究者、ジャーナリストなどの有識者3名も参加した。
討論のテーマになったのは、「議員報酬」や「減税」、「議会と首長のあり方」などであるが、実際に傍聴した市民は「(市議会側は)議会改革に自主的に取り組んだかのように自賛していたが、河村市長に追い詰められて渋々費用弁償の廃止、市民に意見を求めることもなかった議会基本条例などをつくった」「自分たちで何もしなかった談合政治の反省もない」と切り捨てる。また、法律論を振りかざす有識者には、「実際の名古屋市議会と議員の質を知らなさ過ぎる」と指摘した。
「専決処分を連発する竹原市政」「河村市長主導の市議会リコール」と、議会への対応がマスコミや有識者から問題視されているが、ある意味、「首長が対立せざるを得なかった」といえる議会側の実態については議論の蚊帳の外に置かれ、法律・制度といった建前論だけが目立つ。
前者については、市議ボーナスの日当制、市長・市議・市職員のボーナス半減、副市長の専決選任などが"対立"の象徴のようにクローズアップされている。しかし、その一方で、ゴミ袋の値下げ(半額)、保育料の値下げ、放課後学習教室の実施など、市民生活に密着した施策についてはさらりと流されている。特異性を強調して読者の興味を得ようとする、いわば『商業主義的報道』の弊害が、問題の本質をうやむやにしているとも言える。
後者については、リコール署名運動中、市議会側が「大衆煽動」と声をあげたが、さすがに運動に参加した市民の数、そして河村政策への高い理解度に基づく強固な意志により、今では「市民主導の運動であった」との認識も広まりつつある。何より、約11万2千万人分の署名が無効とされ、もはや"実現不可能"と言われた状況を、署名した大多数の市民からの異議申し立てが覆したことは記憶に新しい。
『対立』か『対話』か―。話ですむなら誰もがそうするだろう。ただし、今まで『対立』がなかった自治体には、首長の大政翼賛会となった議会、もしくは議会の傀儡(かいらい)になった首長がいたことも忘れてはならない。阿久根市民、名古屋市民のみならず、われわれ選挙民それぞれが、自分のいる自治体に置き換えて考えてみてはどうだろうか。
【山下 康太】
*記事へのご意見はこちら