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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (53)
経済小説
2011年2月 9日 11:30

<風評>

 不動産業界以外の普通の人々、それこそピアノの先生や美容師の間にもDKホールディングスの信用不安が広まっていたくらいであるから、当然に取引先や業界関係者は警戒を強めていた。
営業的なニュースリリースは、もっぱら部下の美人広報に担当させていたが... 私は、会社の広報責任者としてマスコミらなどからの取材や質問に回答する立場であった。営業的なニュースリリースは、もっぱら部下の美人広報に担当させていたが、会社の経営状況に関する取材窓口は私に一本化していた。このため、信用調査会社からの取材も私が受けることにしていた。

 信用調査会社の調査は、4月以降変化が現れた。まず、クライアントの発注に基づく取材が増えてきた。当社の取引先と思われる会社が、当社の経営状況を不安視し調査会社にレポートを依頼するのである。そして、従来は大手の信用調査会社から年1回程度の定例調査がある程度であったが、 これまで名前を聞いたことのないような調査会社も取材に来るようになった。
 8月以降はさらに取材がステップアップし、調査会社は、当社の銀行別借入金残高の推移および物件別販売状況を月次で追い始めた。

 私は、信用調査会社からの取材に関しては、従来より、投資家向け広報と同一基準で裏表なく対応することとしていた。これまでも、物件別の販売状況などについては質問があれば具体的な客先名などは避けつつも、極力「ファンド会社と契約済み」とか「市内の個人から引き合いあり」というように具体的に回答することとしていた。信用調査会社からの取材でも同様である。またマスコミなどの問い合わせの内容は、当社に対する社会の関心の様子を示す貴重な情報であるため、都度、会長および社長にメールで報告を入れるようにもしていた。特に新聞記者からの電話取材は、翌日にも記事になる可能性があるため、トップへの報告を密にした。極力不意打ちを避けるためである。
 このように、裏表ない取材対応ができたのは、いちおう実現可能な利益計画及び資金繰り計画を作成し、業績予想の修正もリリースしていたからである。このため、信用調査会社からの取材に対しても、同じ計画に基づいた説明を行なった。

 取材対応の例としては、以下のような感じである。
「天神南部土地がひとつのヤマで、これを予定通り売却すれば資金繰りも一息つけると思います。今、当該土地は、大手企業と商談をしておりますが、売却は10月までかかると思います」
 このように嘘をつかず、仮定の話も含めて誠実に説明した。物件のパースなどの資料も要望に応じて提出した。これらのことにより主だった信用調査会社の調査レポートには、基本的には以上のような当社の努力目標をきちんと伝えてくれた。
 私は、上場会社は多くのステークホルダーを有する以上、調査会社の取材といえども断るべきではないと考えている。会社として苦境を乗り切るために正当な努力をしているのだから、取材には原則としてすべて応じ、堂々たる公式見解で応じるべきである。ときには取材で回答したこと(いついつまでに物件を売るなど)が、実現できないこともあるが、それは経済は生きているものなのでやむを得ない。広報マンとしては現在している努力をきちんと説明するべきであり、そして、それを真に受けるかどうかは、マスコミの読者や調査会社のクライアントが判断することである。
 これが、すでに粉飾に手を染めていたり、相手先別に荒唐無稽なストーリーを組み立てなければならないようになると、どこかで話のつじつまが合わなくなり、記者の質問に対して口ごもることとなる。そうなれば、マスコミを避けざるを得ない。当社の場合は、裏表のない公式見解を広報対応の原則とすることが、会社の事業活動に対する牽制としても機能していた。もし、私が会社の広報責任者としての立場を持っていなかったら、私は会社にもっと無理をさせ、会社は民事再生ではすでに手遅れな状況に至ったかもしれない。


〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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