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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (58)
経済小説
2011年2月14日 08:30

「このままでは中間決算できません」

 私は公認会計士からの諫言を受け、これまで以上に全取締役が一丸となって危機の打開に当たることが必要と判断したため、8月中旬以降、毎週土曜日の朝に在福岡の全役員を会社に集め、週末は札幌にいる江口常務は電話会議システムで参加することとし、定例ミーティングを開催することとしていた。

 これまでも毎週水曜日に部長会を開催していた。これは、情報共有化と必要な事項の周知徹底を目的として、部長以上が全員参加し、営業的な事柄については江口常務が、管理的な事柄については私が議長となって進めるミーティングであった。しかし、営業とりわけ物件の販売については、江口常務の販売活動はプレイヤーとしての比重が多く、各物件の進捗管理は本社営業責任者の稲庭取締役に任せきりの印象であった。そして、各物件の商談進捗状況が、トップに的確に報告されている様子もなかった。そのため、この後に及んでは黒田会長および岩倉社長のリーダーシップに期待するよりほかなく、会長以下、取締役全員が参加するミーティングを設けたわけである。

9月下旬のミーティングで私は、先述の資金繰りシミュレーションを示して説明した... 9月下旬のミーティングで私は、先述の資金繰りシミュレーションを示して説明した。
「第一のシミュレーションは、私が江口常務よりヒアリングした販売予定価格に基づく資金繰りです。これでいくと、一見すると資料のとおり、向こう1年間、会社は何とか資金繰りを維持できます。しかし、よく見てください。このシナリオを達成するためには、天神南部が20数億円、札幌駅前が10数億円でそれぞれ売れなければなりません。それも10月に。そして、これらの土地の商談進捗は、今営業から説明があったとおり、この価格で売れていく可能性は非常に低くなっているといわざるを得ず、このままでは中間決算できません。ですから、これらの土地、そしてほかにノーマークに近い状態の物件が、鹿児島・大阪・名古屋にもありますが、これらについても、担当を決めて、懇意の顧客から直ちに買付証明をもらってください。それ以外に生き残る術はありません」
「他に策はないんですか?例えば資本増強とか?」
 企画部長が質問した。
 これまで私は予算管理上、常に転ばぬ先の杖を意識し、仮に業績が未達に終わりそうになる場合を想定して一定のバッファを設けるようにしていた。このようなことが営業幹部の印象に残っていたため、これほど状況が厳しくなっても、私が何か秘策をもっているかのように期待していたのであろう。
「秘策はありません。唯一の道は、不動産を売ることで監査を通すことです。そうすれば活路が開けます。もちろん資本増強の可能性はありますが、それも相手先があることです。物件を売り切れるような営業力のある会社でないと誰も出資などしません」

 8月の上旬には、福岡の国体通り沿いの大型土地が売れるなどして、いよいよキャッシュリッチ企業が不動産の買いに転じ、一定のところで地価は下支えされるかに見えたが、その後9月には米大手証券のリーマンブラザーズの破たんのニュースが飛びこんできた。これにより、垣間見えた光は消え、営業本部が出してくる商談進捗報告書に見られる顧客の価格目線も目に見えて下落していくのがわかった。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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