NET-IB NEWSネットアイ

ビーニュース

脱原発・新エネルギーの関連記事はこちら
純広告用VT
カテゴリで選ぶ
コンテンツで選ぶ
会社情報

経済小説

天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (59)
経済小説
2011年2月15日 12:01

II 民事再生

平成20年10月「この状況であれば民事再生を出すしかない」

<秘密の出張>

私は目的を秘匿して出張せざるを得なかった... 私は、10月上旬、行き先を秘匿し、東京に出張した。表向きは、証券取引所の会議として出張申請したが、実際の目的は、東京の顧問弁護士との面談であった。
 私の部下である総務部長は、すでに内々に民事再生法、会社更生法、破産法、会社法特別清算といった法的整理についてその内容を整理しつつあった。私は、これらに加え、私的整理に最後の望みをかける覚悟でいた。そのため、これらの戦略をどう考えるべきか、東京の顧問弁護士の意見を聞こうと考えたのである。当社は地元福岡でも顧問弁護士と契約していたが、こちらの先生は、不動産に関わる実戦には強かったが、会社法や倒産法に関しては詳しくないと考えたからある。すでに、第1四半期決算や資金繰り予定表等の資料は電子メールで送信し、これらの資料を弁護士の事前検討の用に供してあった。
 私は9月までは月間2回程度東京に出張し、頻繁に銀行に状況説明をしてきた。しかし、10月に入り、いよいよ銀行が当社を危険水域と見なし始めたのか、もっぱら状況報告は岩倉社長に求めるようになっていた。そのため、私は目的を秘匿して出張せざるを得なかった。

 出張するときは、私はタクシーで自宅を出て、途中保育園に当時4歳の娘を預け、その後、空港に向かうのを常とした。
 タクシーのなかで娘がふと私に聞く。
「お父さんの会社つぶれると?」
 この時期になると、当社が危ないということは福岡中でうわさされており、娘が家内に連れられて週1回通うピアノの先生にすら「ご主人の会社は大丈夫ですか?」と心配される始末であった。そういう大人の会話を聞いて理解している。我ながら賢い娘だと思った。
「そんなことないよ」
「お父さんの会社、つぶれたらペッシャンコになっちゃうやんか」
 会社がつぶれるという大人の会話は聞き取っていたが、会社がつぶれる、ということの真の意味はどうやら理解していないようだった。
「大丈夫だよ。お父さんが、会社にいってよっこいしょするけん、心配せんでいいよ」
 恐竜の絵本を読んでやっても、どうして恐竜が死に絶えてしまったのか、という疑問を抱く娘である。そこで、「むかし、地球にお星様がぶつかって火山がたくさん噴火して大変な地震が起きて、それで恐竜は死んじゃったとよ」と説明してやると、おびえたような顔で「またお星様がぶつかるかいな?」と今度は人類滅亡の心配をする。
 その娘が、私の「大丈夫だよ」という説明に、にっこり笑う。そのあどけない笑顔を見つつ、私は目頭を押さえた。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

≪ (58) | (60) ≫

※記事へのご意見はこちら

関連記事

powered by weblio


経済小説一覧
純広告VT
純広告VT

純広告用レクタングル


IMPACT用レクタングル


MicroAdT用レクタングル