NET-IB NEWSネットアイ

ビーニュース

脱原発・新エネルギーの関連記事はこちら
純広告用VT
カテゴリで選ぶ
コンテンツで選ぶ
会社情報

経済小説

天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (63)
経済小説
2011年2月19日 07:07

<天神南部物件の行方>

 札幌駅前と天神南部、この2物件が10月に予定価格で決済できなかったら法的整理に進まざるを得ない。これが私が9月上旬時点で、あらゆる情報を集約してシミュレーションを行なった結果の結論であった。このうち、札幌駅前物件は、先述のとおり10月中の決済は不可能となった。

あらゆる情報を集約してシミュレーションを行った結果の結論であった... 天神については、10月中旬の定例部長会のなかで、X取締役から報告があった。
「天神南部物件については、まず大手企業系の不動産会社については、先日担当の方と直接面談しました。しかし、最近の市況の変化のため様子見状態となっており、現在のところ価格を出すのは難しいという説明でした。もう1社、9月末に地元公益企業の経営企画の課長と面談してきましたが、ここは、自社所有不動産の建替などで資金を使用する予定があるため、30億円規模の投資を早急に決断することはできないとの説明がありました。ですから、この物件については売れる先がまったくなくなりました。もし、皆さんからどこか商談ができそうな先があればご紹介いただきたいと思います」
 またしても、最後まで諦めてはいけない営業の責任者が誰よりも先に、早々に諦めてしまっている。思い起こせば、この人は、3月の大分ホテルの売却のときも、早々にバンザイしてしまい、後は黒田会長の指示で、いやいや自分の懇意顧客に物件提案に行き玉砕していたものである。
 そのときのことがあったので私は、
「1社との商談に絞らず、業界慣習からしたら多少の軋轢はあるかもしれないけれども、敢えて複数の相手先と同時並行で進めてください。1社と売買契約ができたら、2番手には謝りにいけばいいじゃないですか」
 とか
「キャッシュリッチな大手を相手に売ろうと思ったら2カ月で決済まで進むのは無理です。従って、国体通り沿い物件が売れてから商談に入るのでは遅いんです」
 というようなことを5月以降、毎週のように申し上げ続けたのであったが―。

 部長会に出席している私の部下の総務部長や経理部長は「もう法的整理を出すしかない」という顔をしている。総務部長は強硬で、実際に、その旨発言したように記憶している。2物件が売れなければ法的整理。悲しいかな事態は、私のシミュレーションどおりに動いていた。私は、どのようにこの部長会を締めればいいのかわからなかったが、気を取り直して述べた。
「それでは、もう議題がないようですので、ほかに何か言い残した方がなければ部長会を終わります。ぼくとしては、会社がどのようになろうとも最後まで最善の努力をしていきます。もちろん、まだ法的整理以前にできることはあり、その準備もしています。非常にしんどいことですが、皆さんも諦めずに最後の努力をしていただきたい。売ることがきついのはわかっています。ぼくも日々銀行に説明を求められ、夜遅くまで、また自宅に帰っても電話がかかってきます。それもきついものがあるが、耐えていくしかありません。でも、もし会社が倒産したとしたら、そのときのきつさは、そんなものではないですよ。それと比べれば今売る努力をすることがはるかに楽です。そこは覚えておいてください」

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

≪ (62) |

※記事へのご意見はこちら

関連記事

powered by weblio


経済小説一覧
純広告VT
純広告VT

純広告用レクタングル


IMPACT用レクタングル


MicroAdT用レクタングル