目標は山と同じようなものだ。高ければ高いほど登る価値がある。これは哲学的な意味ではなく裾野の広がりという意味で、である。高い目標の達成は強い影響力を持つ。同時に達成へのハードルは難しくなる。このバランスこそが登山をスタートさせることができるか否かの分岐点なのだ。山崎氏の語る「夢」は我々にはエベレストのように写る。経験もなければ想像したこともないからだ。しかし、山崎氏は、まるで登山ガイドのように道順を決め、準備を進め続けていた。夢ではなく、現実として。
山崎氏の語る計画は映画配給会社パラマウントの映画テーマパークをつくることにある。場所は福岡市東区のアイランドシティ。これだけではない。テーマパークに隣接してUCLA(カリフォルニア大学ロサンゼルス校)のエンターテインメントエクステンション(映画、音楽、芸術などを学ぶことができる専門教育機関)まで誘致を考えているのである。ただ楽しいだけではなく、先端文化を学び、人材を育成することができる場所としてアイランドシティを活用したらどうか、という提案なのだ。東京ディズニーランドは、たしかにおとぎの国だ。そこから外へ出たら日常に戻される。映画の楽園USJもしかり。しかし山崎氏の描くテーマパークは、ある人にとってはそこが出発点となるのである。すばらしい映画の世界に触れて、それに携わりたい人に対して学ぶ場を与える。最高度の技術を身につけて、福岡から飛び立ってアメリカの映画業界へ進出する人が出てくるかも知れない。そんな夢まで見させてくれるのである。
このアイデアは昨日今日で思いついたものではない。10年以上もの間、折衝と挫折を繰り返し、磨き上げられてきた最終形なのだ。とはいえ、机上の空論ならば誰にでも口にすることができる。ああだったらいいのに、こうだったらいいのに。これは計画ではなくて願望だ。山崎氏の「計画」は投下資本の問題、売上の予測、利益の予測、パラマウント・UCLA側とのパイプまで裏づけを取り付けた上でのものなのである。山崎氏は
「あとは地元の『前向きに検討します』の一言、これだけでプロジェクトは一気に現実味を帯びる段階にまで来ているのです」
と語る。それが実現したら福岡に何が生まれるのか、それは市民生活にとってプラスとなるのか、どれほどのリスクがあるのか。
【柳 茂嘉】
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