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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (71)
経済小説
2011年2月27日 08:00

<融通手形>

 10月末のある日、私の席の電話が鳴った。X取締役からの内線であった。
「石川さんですか?実は私の知り合いを通じて、『手形を利用してDKホールディングスに資金を融資したい』という紹介が来ているんですが...一度話を聞いてやってもらえませんか?」
 私は「手形」「資金」というようなキーワードから、一抹の不安を抱いたがX取締役の顔を立てようと思い、その人から私に直接電話をかけてもらうよう計らってもらうことにした。

しばらくして怪しいカタカナの会社名を名乗る人から、私に電話があった... DKホールディングスでは手形は取り扱っていなかったが、受け取った手形は銀行などに持ち込んで現金化(割引)することができるため、そのようなやり口ではないかと想像した。いずれにせよ、事業で収益を稼げなくなってしまっている当社としては、こんなことで現金を得ても返済はできない。インターネットで、「倒産」「手形」といったキーワードで検索してみると、実際、資金繰りに困った会社が、親しい取引先から手形を借りて、それを現金化して一時しのぎをする、という話がたくさんある。

 しばらくして怪しいカタカナの会社名を名乗る人から、私に電話があった。
「私は御社のX取締役と懇意にさせていただいておりまして、それで御社に資金のニーズがおあり、と伺ってお電話差し上げました。実は弊社では、電力会社をはじめとして多くの投資家から余剰資金を預かっておりまして、手形を活用したご融資を提案しているところであります。投資家が投資を急いでおりますので、一度石川様にお目にかかれないでしょうか?」
「そうですか。せっかくいただいたお電話ですが、もし、そのように投資を急いでいる方があるのであれば、この不景気で他に困っている会社がたくさんあると思いますので、そちらにご案内ください」
 そういって、私は電話を切った。
 まあ、X取締役は営業の責任者なので、方々で名刺を配っているはずであった。したがって、このような商売の人がX取締役の紹介といってアプローチしてきても不思議はなかったわけだが、私はそのとき少しさびしい気分になったことは確かである。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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