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行政

議員提案条例の意義(1)~福岡市の行政改革(34)
行政
2011年2月25日 07:00

<条例制定の背景・理念の明確化>

 福岡市の生活交通条例は、議員提案で制定されましたが、このことの意義のひとつに「条例制定の背景・理念の明確化」ということが挙げられます。
 この「生活交通条例」には、異例とも言える長い「前文」があり、それが大きな特徴となっています。このようなことは、議員提案だからこそできたことです。福岡市の場合、市長サイドの執行部が作る条例には、原則として前文はありません。

 私は前文を書くことは、非常に意義があると考えています。それは「なぜこの条例を作ったのか」という立法趣旨が、前文を読めばより明確に分かるからです。時間が経って社会の状況が変わっても、この前文を読めば「この当時の、こういう状況下で、こういうことを目指して制定された」ということが分かるからです。つまり、この前文が、条例の解釈基準となり、運営指針にもなり、立法者の思いを反映して、実効性のある条例となることに大いに役立つと考えています。

福岡市内の交通 とくに前文のなかの「今こそ、市民の生活交通を確保し、すべての市民に健康で文化的な最低限度の生活を営むために必要な移動を保障するとともに...」という表現は、まさに「交通権(移動権)」そのものです。国土交通省が平成22年3月に報告した「交通基本法の制定と関連施策の充実に向けて(中間整理)」および同年6月に公表した「交通基本法の制定と関連施策の充実に向けた基本的な考え方(案)」には、「私たちひとりひとりが健康で文化的な最低限度の生活を営むために必要な移動権を保障されるようにしていくことが、交通基本法の原点であるべき」と書かれています。このように、生活交通条例では、「権利」という言葉を使いませんでしたが、国土交通省の考え方とまったく同じ理念に立っています。

 また、この生活交通条例が、国の交通基本法に先駆けてつくられた意義も、これは大変大きなものであると考えています。たとえば、情報公開制度については、情報公開法よりも自治体の情報公開条例のほうが約20年近くも早く作られました。自治体の先行した取り組みに追随して、国が情報公開法を作ることにより、ようやく「知る権利」が法的に担保されることになりました。公害や環境問題についても、同じような流れで「環境権」が重要視されるようになりました。生活交通に関しても、国の交通基本法に先駆けて、この条例で「交通権(移動権)」を明確に位置付けたことが、今後の日本の交通政策に良い影響を与えていくことを期待しています。

(つづく)
【寺島 浩幸】

▼関連リンク
「公共交通空白地等及び移動制約者に係る生活交通の確保に関する条例」

≪ 第33回「「交通」の高い公共性」 | 

<プロフィール>
寺島浩幸氏寺島 浩幸 (てらしま ひろゆき)
福岡県立修猷館高校、福岡大学法学部法律学科を卒業。1987年に福岡市役所入庁後、総務局法制課、人事委員会任用課、情報公開室係長、市長室経営補佐係長、議会事務局法制係長などを歴任し、2010年8月退職。在職中、主に法律関係の職務に従事するとともに、市長直属の特命業務や議員提案条例の支援を担当するなど、市長部局と議会事務局の双方の中枢業務を経験。
 現在は、行政書士事務所を開業して市民の身近な問題の解決をサポートするとともに、地域主権の要となる地方議会の機能強化を目指し、議員提案条例アドバイザーとしても活動中。

<主な実績>
・日本初の協定方式による第3セクターの情報公開制度の条例化
・日本初のPFI事業(タラソ福岡)の破綻再生
・日本初の「移動権(交通権)」の理念に立脚した議員提案条例の制定支援

▼関連リンク
寺島氏ブログ
・ツイッターは、コチラ


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