各部署の損益がほぼリアルタイムに分かるアメーバ経営の手法を取り入れ、JALは早ければ今春にも各路線別、各便別の損益が分かる経営管理体制に切り替わる。JALは創業60年経っても路線別収支を作成しておらず、どんぶり勘定のままだった。月次決算も翌々月にならないと判明しないため、収支の悪化に対する経営改善策を打つのが常に遅れてきた。そうしたずさん極まりない風土を変えるのが、アメーバ導入の狙いだ。
さて、こうした稲盛改革がJALの社員をどこまで改造できるか、まだ心もとない。
JALの社員は、言葉遣いが丁寧で物腰が柔らかい紳士・淑女が一見多そうに見えるが、表面上の礼儀正しさとは裏腹に、本性は妙な優越意識を持つ輩が少なくない。自民党の政治家や高級官僚、財界人といった地位のある人には慇懃なほど丁寧にかしずく半面、ライバル社の全日空(ANA)や旧日本エアシステム(JAS、現在はJALが吸収)を露骨に蔑視し、社内でも非主流派労組員に対しては差別意識をむき出しにしてきた。
稲盛氏に対して、JALの社員たちは表面的には実に礼儀正しく、忠誠をつくしたようなそぶりを見せている。「うちの連中はそういうのはうまいからな...」というのは、JALの元役員である。経営企画部門は国交省航空局の官僚を、秘書部門が自民党の運輸族の政治家たちを、広報部はマスコミの記者やフリーランスのジャーナリストたちを、酒食をもってもてなし、懇ろになることにつとめてきた。かつて大手都銀は、大蔵省に出入りするMOF担なる大蔵担当の専任職をおき、それが出世の登竜門だったが、JALは社内全体がそうしたMOF担的な「対策屋」カルチャーなのである。
表面的には稲盛氏ら京セラ一派に忠誠を尽くしつつ、裏では「アッカンベー」をしている。おそらく、JALの中堅以上の幹部社員はそんなところだろう。実際JALの企画部門で働く中間管理職は、「航空業界のことを知らない稲盛さんがすべて決められるわけがないじゃないですか。決めているのは我々ですよ」と、JAL生え抜きの社内エリートたちが意思決定にかかわっていると豪語する。JAL関係者からは「倒産して経費節減を努めているのに、稲盛さんの使う費用がバカにならない」という声も上がる。東京滞在のホテル代や交際費のことを指すと思われるが、無報酬でリスクの高い会長職を受けたのに、そんなことで「ケチ」と言われるのは悲しいだろう。妙な自慢と悪口の言い方が実にJALらしいのである。
とはいえ、JAL社内に次第に広がる京セラ流のアメーバ思想に恐怖を感じているのが、ライバルのANAだ。倒産したJALほどの放漫経営ではないとはいえ、ANAも京セラほど収支意識や経営管理がしっかりしているわけではない。銀座に近い汐留の高層ビルに移転してから、「交際費を使った社員の遊び癖が広がった」(元記者クラブ詰め記者)とも言われる。JALの改革をANAは等閑視できないのである。
【特別取材班】
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