毎年、１月末になると世界中のリーダーがスイス山中のダヴォスに集めることで知られる世界経済フォーラムの年次総会。この「ダヴォス会議」は1971年から開催されている。今年は１月の26日から30日に開催された。毎回ひとつのテーマが設定され、それに基づいて世界中から政治家、学者、企業経営者たちが集まり、討論が行なわれる。かつてはダヴォスで話し合われたことがそのまま世界経済のアジェンダになると言われたほどで、いわば「世界経済の実験室」というべき存在だったが・・・。

　今年のテーマは「Shared Norms for the New Reality」（新しい現実で共有されたルール）というものであり、そのテーマが示すように、「グローバル経済」の統合とネットワーク化を目標にしたこの国際会議が、2008年の金融危機、そして現下のG20の多極化（あるいは無極化？）する世界において新しい共通アジェンダを見つけようと呻吟（しんぎん）していることがよくわかる。

　今年は通常国会開会直後にも関わらず、菅直人首相が福山哲郎官房副長官らとジェット機で滞在５時間というトンボ帰りの「超強行軍」で参加し、「開国と絆」というテーマで演説した。去年は、鳩山由紀夫元首相は欠席、「影の総理」として存在感を強めていた仙谷由人・国家戦略担当大臣（当時）が出席していた。アメリカと対立して総理を退陣に追い込まれた鳩山氏が欠席し、最近とみにアメリカとの関係を深めている仙谷氏が出席するというのも深読みすれば面白い話である。

　さて、この菅首相会見、国内ではこの演説はほとんど注目されなかった。（参照：http://www.weforum.org/videos/vision-japan?fo=1）ダヴォスの公式ウェブサイトにもこの演説の動画は掲載されたが、２月１日現在で視聴者は36人（２月22日でもわずか59人）である。しかも、菅首相がダヴォスに向かう直前にアメリカの格付け会社Ｓ＆Ｐが日本国債の格下げを発表、菅首相は演説では、さすがにこの国債問題には触れなかったものの、自身が進めてきたTPP（環太平洋経済連携協定）については、「６月をメドに結論を出す」と事実上、"国際公約"として明言してしまった。

　ダヴォス会議に出席するだけで総額費用１億円以上かかると言われている。「日刊ゲンダイ」によると、麻生太郎首相が参加した09年は政府専用機２機で9,840万円だったという。菅首相は主要国首脳との会議も行わなかったようだ。ダヴォスが新興国首脳が世界にお披露目する場としての役割を果たしてきたのは事実だが、ここ数年は世界経済の中心が欧米からアジアにシフトしており、あえてスイスに向かう必要もない。毎年、ダヴォスについて精力的に報道してきた英Financial Timesも毎年は開催前と後に別冊で特集号を発行するが、今年は開催後の別冊がなかった。

　ちなみにダヴォス会議に参加するためには高額な参加費を必要とする。まず、参加するだけでIndustry Associateになる必要がある。その費用は合計で15万6,000ドル　(1,279万円、１ドル＝82円換算）である。同伴者が５人の場合にはStrategic Partnerというものにならねばならず、合計費用は5,000万円以上になるという。（参照：http://dealbook.nytimes.com/2011/01/24/a-hefty-price-for-entry-to-davos/）

　そのダヴォスが終わった直後の２月10日から13日にかけて、雪降るなか、日本の山梨県のリゾート地、小淵沢で「G1サミット2011」という会合が開催された。このG1サミットは、公式ウェブサイトによれば、＜「GLOBE（世界）がひとつになる」「GLOBALでのNo.1」「GENERATION（世代）が一丸となる」という思い＞が込められているという。要するに「日本版ダヴォス会議」というべき会合である。

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＜プロフィール＞
中田　安彦　（なかた　やすひこ）
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所（SNSI）で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本：こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。

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