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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (73)
経済小説
2011年3月 1日 10:52

 事業収益の確保の観点からも検討していった。
 当社はオーナー様に販売した1棟売り賃貸マンションを、サブリースすることで管理戸数を増やしてきた。しかしサブリースは、新築当初は、日本人の新築好きゆえに高い家賃でも満室になるが、5年経過し新築プレミアムがいったん剥落すると家賃相場が2割近く下落し、赤字となる傾向にあった。この家賃の逆ザヤは民事再生の前年で年間1億2,000万円に上った。それだけではない。当社は、オーナー様に4カ月程度分程度の敷金を差し入れて物件をサブリースしていたが、いっぽうで当社が入居者から受け取れる敷金は物件間の競争の激化により1~2カ月となり、ここにも数億円の逆ザヤが発生し資金繰りを圧迫するようになっていた。
 平成15年くらいまでは、それでもいいという考えであった。しかし、そうはいかなくなってきたのが、固定資産の減損会計の導入である。この導入によって上場会社は事業ごとのキャッシュフローの発生状況を評価して、もし将来的に赤字が見込まれる事業がある場合は、その事業のために保有している固定資産は通常の基準で減価償却していくのではなく、全額を減損処理(ゼロ評価に引きなおし、損失を計上する)しなさい、というものである。考え方としては、固定資産というものは将来的に収益を上げることによって投資回収を図ろうとしているもののはずなので、収益が上がらないということは投資回収ができない、ということだから固定資産の残高を全額損失計上しなさい、というものである。簡単にいえば、これまでのようなどんぶり勘定は許されず、上場会社は各事業できちんと利益を上げなさい、ということである。

 このため、過去3年に渡り不動産管理事業の担当取締役が私と共同で収益改善計画を策定してきたが、その成果が現れず、また、収益改善の努力の跡も見えていなかったため、当社では平成19年3月期決算で、不動産管理事業の収益性が明らかでないとして、約4,700万円の減損処理を行なった。
顧客の説得には大変な労力を要したが... これをきっかけに黒田会長の許可を得て社内にプロジェクトを立ち上げ、週ごとの進捗管理によりサブリースを全面的に見直して契約更改を行なっていったことは先に述べた。これまでは2年ごとに見直しするとしかうたわれておらず、実際には散発的にしか賃料改定が行なわれていなかったものを、3年ごとに賃料実勢に連動して自動的に賃料改定する新契約に切り替えた。顧客の説得には大変な労力を要したが、一匹狼の営業課長をそのリーダーに据えることで彼が精力的に働き、無事に切り替えに成功していた。会社が民事再生を出さなかったら、この新サブリース契約が平成21年4月より発効し、サブリースの粗利益が大幅に改善されるはずであった。

 しかし、この新サブリース契約は、先に述べた敷金の逆ザヤまで解消しようとするものではなかった。それに11月に民事再生を出せば、その先は不動産管理事業の収益のみで食っていかなければならないため、不動産管理事業の収益改善は一刻の猶予もなかった。このため、やむなく新サブリース契約は、すべて普通の管理契約(家賃の5%程度の管理手数料をいただき、空室リスク・敷金リスクなどはすべてオーナー様が負う)への切替えをお願いせざるを得なかった。そうすることで初めて当社は、不動産管理事業のみで自立することができると思われた。

 当社は、これまでオーナーの利益第一主義、という理念を掲げて取り組んできた。確かに、この理念が、管理会社としてのオーナー様への丁寧な対応につながっただろう。多くの入居者からも当社の物件は管理がいいとの評価を受けていた。反面、過去のサブリースで経済合理性に反する逆ザヤを放置してきたのは理念の呪縛によるものであったともいえる。
 本当のオーナー様の利益第一主義とは何だろうと自問した。それは、トラブルを何でもカネで解決することではない。家賃相場からかけ離れた条件で借り上げてあげればオーナーは嬉しいだろうが、経済合理性を超えた賃料保障で当社が持たなくなってしまったのでは、本当のオーナーの利益第一主義とはいえない。オーナーは賃貸マンションの経営者であり、多くの場合、奥様が連帯保証人になり、リスクを負って投資をしており、オーナーはそのリスクから逃れることは、そもそもできないのである。それでは、そういうオーナーに当社が管理会社として何ができるかといえば、きちんと低廉な対価をいただきながら迅速かつ高品質の管理をしてゆくことではないか。そして何よりも、リーシングに力を注ぐことである。こうして割り切って、サブリースをすべて一般管理に切り替えていくことを決めた。黒田会長は弁護士の安田先生と相談しつつ、この問題を如何にオーナーに説明し理解を得てゆくか、検討を進めていた。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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