税制は、年度ごとに首相の諮問機関である政府税制調査会(政府税調)が審議し、その結果を政府に答申する。今回の改正大綱は、自公政権当時の政府税調が委員の任期(3年)終了および政権交代もあって、09年10月に一新されたメンバーでまとめられたもの。従来と大きく変わったのは、委員の顔ぶれと組織。従来は大学教授やシンクタンクの研究者、さらに作家や新聞社の論説委員など、いわゆる学識経験者20人弱で構成されていた。
ところが、新税調は財務大臣(野田佳彦)を会長に、会長代行に総務大臣(片山善博)、国家戦略担当大臣(玄葉光一郎)、内閣府特命担当大臣(与謝野馨)以下、各省の副大臣と政務官、さらにオブザーバーとして民主党政策調査会長代理、同党税制改正PT(プロジェクトチーム)座長ら総勢約30人が、機械的に当てはめられている。「政治主導」を謳う民主党らしい政府税調と言えるが、そのもとに設けられている各委員会組織も様変わりした。
従来の政府税調のもとには、産業界、労働界、自治体首長、学識経験者ら各界代表による特別委員会と大学教授、研究者による専門委員会、分析部会が置かれていた。いずれも10数人から20数人のメンバーで構成。しかし、新税調下では専門家委員会、基礎問題検討小委員会、納税環境小委員会、国際課税小委員会と4組織が設けられているが、メンバーはほぼ全員が大学の教授、準教授ばかり。それも、わずか4人(基礎問題検討小委)から多くても11人(専門家委)と極端に少ない。
これでは「財務省に都合の良い御用学者ばかり」(大手紙財務省担当記者)で、幅広い層からの意見集約がなされたとは思えない。その結果が法人減税以外は、相続税や所得控除の見直しなどによる個人増税、とりわけ「富裕層」イメージのある相続税をターゲットにした増税だ。
その仕組みや詳細については、さまざまなメディアが報じている通りだ。要は、これまで相続する遺産総額から5,000万円までは基礎控除されていたのが、基礎控除額が3,000万円に引き下げられる結果、対象者(相続人)が約6万人増加。相続税税収も約3,000億円増えると試算されている。その増収分は、子ども手当や法人減税の原資に回ると見られ、「ツジツマ合わせの税制改正」との批判が出るゆえんだ。
「菅内閣は『税と社会保障の一体改革』を謳い文句に消費税導入を図っているけれど、財務省に乗せられているだけ。今、消費税を上げる必要はまったくない。そんなことをすれば、景気を腰折れさせるだけです」と言うのは、民間企業で長年、経理や財務を担当してきたB氏。同氏によれば、メディアも国民も「国の借金800兆円。国民1人当たり600万円」と声高に叫ぶ財務省に洗脳され、国家財政の本当の姿を知らされていないという。
「国の財政状態も企業のそれも、基本は同じ。民間企業の経理基準を国に当てはめればいい」(B氏)となる。
統計データ発表のズレはあるが、まず財務省が言う借金、すなわち債務は内閣府の07年の国民経済計算では、借入金57兆円、国債535兆円、財投債140兆円、政府短期証券102兆円のトータル834兆円。
債務に対して、当然ながら資産もある。同じ国民経済計算の05年から試算した金融資産は、(1)社会保障基金が年金200兆円、国保積立金60兆円を合わせて260兆円。(2)内外投融資210兆円、外貨準備金110兆円を合わせて320兆円。(1)、(2)をトータルすれば、580兆円となる。
債務834兆円から資産580兆円を差し引けば、純債務は254兆円である。
「それを財務省は、最近発行の『日本は財政危機』のなかで、『借金838兆円、国民1人当たり660万円』と債務だけ煽っている。実態はその3分の1弱です。しかも、これには国有地という膨大な資産が入っていない。それを含めたプラス、マイナスで考えれば、今、増税する必要はありません」(B氏)。
今回の相続税増税は、「広く浅く、取れるところから取れ」という財務省の消費税増税戦略の露払いみたいなもの。国会で承認される前に、財務省のお先棒かつぎの菅内閣がツブれている?
恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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