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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (82)
経済小説
2011年3月10日 16:28

「X取締役はどこに逃げた!?」

私は憤懣やるかたない気持ちだった... 小一時間して自席に戻ると、総務部の社員が私に話しかけてきた。
「6階に不穏な空気が流れているようです」
 私は理由が分からず、その社員に聞いた。
「不穏って、それどういうこと?」
「役員が帰ってしまったようで、もう、残っている社員は爆発しそうですよ」
 そこで、私は以前まで総務に在籍していた女性社員に内線を入れてみた。
「いま、何が起こっているの?」
 女性社員は答えた。
「X取締役が帰ってしまいました」
 私は思ってもいなかった返事に驚いた。
「ええっ? 終礼のあと個人面談していないの?」
「はい。6階の終礼のあと、なかなか個人面談が始まらないんです。そこで、X取締役に聞いてみたら、『それじゃ明日ね』っていってそそくさと帰られてしまいました」
「明日、営業は10時からオーナーさんへの説明会があるじゃないか......そんな暇なかろうに」
「もう状況は変えられないわけですから、早くはっきりさせてほしいです」
 女性社員は多少いらつきが混ざった困り声で言った。とりあえず私は電話を切った。

「X取締役はどこに逃げた?」
 私は憤懣やるかたない気持ちだった。先に会長は、皆の前であれだけ辛い気持ちを示し、役員一同で社員の再就職も支援しようという決意を示したのに、会長・社長を補佐し70人の部下を持つ営業の責任者が敵前逃亡である。もっとも、営業本部長の下に担当取締役がついている建築部やマネジメント部、東京支社はすでに面談が済んだとの報告が集まっていた。しかし、営業部20名の面談が宙に浮いていた。
 いずれにせよ、明日は土曜日だったが何が起こるか分からない、オーナー様などが殺到する可能性もあるため全員出勤としていたので、明日きちんとした面談をさせることにした。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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