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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (83)
経済小説
2011年3月11日 10:35

<帰宅>

 申立当日に帰宅したのは夜10時過ぎだったと思う。
 民事再生のボタンを押すことは、私にとっては心理的に大きなヤマだったので、半分はほっとした気持ちで自宅への夜道を歩いた。残りの半分は、明日からのオーナー向け説明会だ。
 ―― きっと問い合わせも多いだろう
 そんな軽い緊張感が抜けなかった。

申立当日に帰宅したのは夜10時過ぎだったと思う...「ただいま」
 家内は、この日も娘を寝かしつけたあとポテトチップスを頬張りながらテレビを見ていた。
平常時、私は夜8時くらいまでに帰宅し、娘に絵本を読んでやるのが楽しみだった。事前にアポイントのある日と、毎週月曜日以外は必ずそのようにしていた。
 では毎週月曜日は何をしているのかというと"じっくり考える日"にしており、ブレーンストーミングを入れたり、私自身の検討課題の資料作成などに当てていた。ところがこの1カ月は、平日はほとんど深夜帰宅となっていたのだった。

「おかえり。今、ニュースでたくさん出てたよ」
 と家内。
「今までで最高というくらい、マスコミが集まったからねぇ」
「これからどうなると?」
「民事再生の場合は、経営陣は即クビということはない。社員の手前、役員報酬の大幅カットはしなければならないから、しばらく赤字家計にはなると思うけど、まあ社会保険の心配もしなくていいわけだから感謝しないと」
「会社辞めると?」
「普通の社員だったら辞めてもしょうがないけど、ぼくの場合は管理の責任者だから、今辞めたら無責任ということになる。あ、そうそう、今度の20日の給料は、社員には通常通り出すんだけれど、役員は出ないから。役員は雇用契約ではないので。で、その次以降は安くなる」
「早く辞めて転職してよ。いつまでこんな状態が続くと?」
「わからないけれど、早くても数カ月だろうね」
「こんな不景気で転職先なんてあると?」
「会社っていうのは新陳代謝してるんだよ。倒産する会社もたくさんあるけれど、新しい会社もどんどんできている。これから上場しようという会社もたくさんある。だから、今の会社の整理を責任もってできれば、何か仕事はあるって」

 テレビには経済番組が流れており、不動産業界でも従来型のデベロッパーが次々と倒産する一方で、中古マンションのリノベーションや売れ残りマンションを引き取って安売りする会社、それに飲食店の居抜物件を紹介する会社など、新しいビジネスが活気を帯びていることが紹介されていた。それを見て家内は不安を振り切るように言った。
「見て見て。不動産業界のなかですら、つぶれる会社もあれば新しく伸びる会社もあるね」
「そうでしょ、経済は新陳代謝するんだから」
 私はもう一度、社会は"新陳代謝"していることを強調した。

 民事再生ということで私は今後しばらく会社にとどまり、会社の再建に当たらなくてはならない。腰を据えて再生に取り組み、ある程度目鼻がつくまでにどの程度の期間がかかるのか? この時点ではまったく予想がつかなかった。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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