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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (85)
経済小説
2011年3月14日 16:50

 翌日、私は岩倉社長に呼ばれた。そこで私は、携帯電話手当の廃止が社員離れを招いており、それは総務部長が指示したことなので彼の責任を問え、という黒田会長の指示が出ていることを知らされた。
 私は迷わず
「携帯電話の件は、私が責任を持って了承して進めていることですから、そういうことであれば総務部長の責任を問うのではなく、私を解任してください」
 と申し出た。

携帯電話手当如きの廃止に反発して退職希望を出しているのだと思いますか?...「社員たちは本当に携帯電話手当如きの廃止に反発して退職希望を出しているのだと思いますか? たしかに『携帯電話を使わない総務の連中にはわからんめえ』などといわれますよ。給与の切り下げに加えて厳しいお願いになっているのは承知しています。しかし常識的に考えて、1万円程度の手当の変更を理由に全員辞めるということはないですよ。むしろ彼らは、我々を含めた経営陣や自分の上司の役員に不信任を突きつけているんです。だから、とにかく反省するべきを反省して、会社の復活に向けて責任感と熱意を持って説得するしかないんですよ。逆に総務部の新卒者2名はちゃんと残ってくれていますが、それは総務部長がきちんと部下をまとめているからですよ」

 その後、黒田会長の総務部長に対する風当たりはパッタリなくなった。
 一方、牧田取締役は危機に当たっての指揮官の役割をよく認識し、ここで自分が逃げると部が崩壊するとして、不退転の覚悟でマネジメント部の戦力確保に当たってくれた。稲庭取締役も何とか、残ったメンバーで統帥を立て直すことができた。

 当社の人事管理上の反省点として、金銭的待遇を意識し過ぎた点がある。しかし、その実は幹部が、人事制度を活用し評価と処遇を通じて、部下を育てていく、ということができなかったということだと思う。本来、部下の業績をきちんと評価し、評価がよかった者にも悪かった者にも、評価の理由と今後の課題をきちんとした説明をしていれば、全員とは言わないが、7割の社員は上司のリーダーシップを認めてついてくるものである。しかし、当の幹部にその自信がなかったため、しきりに幹部から部下の金銭的待遇のアップを求める声が出ていたのである。そのように社員を甘やかしてきた結果が、今回の携帯電話手当の問題に見られるような形で噴出してきたのである。

 当社では、かねてより人事管理の考え方が幹部に浸透していなかった。部下から「俺の給料は、最近新たに入社した誰それより安いのは納得がいかない」と言われたと私に文句をいい、「新制度で資格手当を拡充した際、証券アナリストの資格手当を導入したのは総務部長のお手盛りだ」と言っては私に電話をかけてくるのがX取締役であった。説明すれば聞いてくれたのだが。
 実際には、中途入社の社員は客観的な基準で基本給を決定しており、既存の社員も入社時には同容に決定していたはずだが、その後、上長による人事考課の結果、そのような結果となったにすぎない。証券アナリストの件についても、上場会社として証券取引法の知識を持つ社員を置くことは重要であり、また財務分析の手法は、不動産の価値分析にも有用であることから、資格手当の対象とした。しかも、資格手当の制度では、お手盛りとの批判を受けないよう、営業系のより難易度の高い資格(不動産鑑定士など)にも手厚い配慮をしてあったのである。
 私は、総務・経理を担当するようになって、このような問題に直面したので、翌年、人事制度と給与制度を見直し、このような問題を解消しようとしたが、その効果を見ることなく民事再生となってしまった。私の力至らなかったところであり、反省すること至極である。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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