8月11日に駿河湾で発生した地震は、かねてより危惧される東海地震が現実に起こりうることを改めて想起させた。東海地震はM8.5、震度8という超巨大地震であるのに対し、今回はM6.5、震度は6弱。それでも死者1人と重軽傷者が約1,000人にのぼり、中部電力浜岡原発が自動停止して地震に対する原発の安全性が再びクローズアップされている。そのなかで九州電力は、他社に先がけてプルサーマル計画に着手するが...。
<プルサーマルは苦肉の策>
先の地震で、地元住民の頭に東海地震がよぎったのも当然だろう。地震規模は2006年の中越沖地震(M6.8、震度6強)並みに強かったうえ、震源がまさしく東海地震の震源域にあるからだ。中越沖地震では東京電力柏崎刈羽原発が全面停止に追い込まれたが、東海地震の震源域の中心に位置する静岡県御前崎にあるのが浜岡原発だ。
同原発には5基が立地されているが、1号機は02年から、2号機は04年から事故で止まったままで、稼働しているのは3~5号機だけである。中部電力は今年6月になって、老朽化を理由に1、2号の廃止を決めたが、かねてから地震に対する脆弱性が問題になっていたために廃炉せざるを得なくなったのが実情だ。残る3基のうち、3号機は定期点検で停止中だったが、4、5号機は地震を感知して自動停止した。
今回の東海地震の、いわば前触れ地震の影響について、中部電力は「目下のところ大きな損傷なし」(広報室)としているが、正確なところは点検を終えなければわからない。4号機の制御装置の異常を示す警報ランプが点灯したり、1~4号の揺れが震度5相当だったのに対して、なぜか5号機だけが震度7相当の揺れに見舞われるなど、解明されなければならない重大事象が起きているからだ。その結果、見通しが立たなくなったのが、九電玄海原発、四国電力伊方原発とともに予定していたプルサーマル計画だ。
プルサーマル計画とは、従来のウラン燃料にプルトニウム燃料を混ぜて原子炉で燃やそうというもの。原発の燃料は、核分裂するウラン235を3~4%程度に濃縮したものだが、「使用済み燃料」と呼ばれる燃え残りを再処理すると、同じく核分裂するプルトニウム239を取り出せる。それをウラン燃料に混ぜた「MOX燃料」と呼ばれるものにして使おうという試みである。資源の再利用、有効利用ではあるが、邪魔な使用済み燃料を少しでも減らそうという側面もある。というのも、使用済み燃料の大部分は核分裂生成物という燃えカス、いわゆる「死の灰」だ。各原発で出る使用済み燃料は膨大で、その処分は最大の懸案である。国や電力会社は「核燃料サイクル」の一環に位置付けているが、プルサーマルはいわば苦肉の策でもある。
(つづく)
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恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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