<増設論議前に真相究明を>
前回の記事でも触れたように、原発での事故は隠せるものは隠し、発表するものも極力過小に、というのがこれまで電力各社に染みついた悪癖。そして、関係者には厳重な箝口令を敷き、現場から遠ざけて所内でも情報遮断する。しかし、時間はともあれ、事実はいずれ明らかになる。原発事故は少ないとされる九電だが、それは情報コントロールによるものと、東京電力ほどの注目度がないという僥倖。
そんな同社にとって今最大の懸案は、川内原発3号機増設問題だろう。159万KWという我が国最大の超大型3号機の増設である。昨年、本誌で触れた我が国最初のプルサーマル計画を実行したように、同社は全電力会社のなかで、常に先陣を切りたい志向があるようだ。
そんな九電側とは別に、原発立地して国から補助金を得るとともに、地域振興を図ろうとするのが自治体首長だ。事故の真相がまだ見えない2月5日、伊藤祐一郎鹿児島県知事は定例会見で、今回の事故と3号機増設について、早々と「影響しない」との考えを表明している。その根拠として、事故は「定検中」、つまり原子炉運転中に起こったものではないとしている。しかし、事故が起きたのは、原子炉の運転はもとより、運転中の異変やトラブルに対応するためのさまざまな安全装置を作動させる電源を所内各所に配電する場所、いわば原発の中枢神経を司るところであり、原子炉とは違う意味での最重要施設だ。
事故は、その保守・点検作業中に起きた。遮断器などの機材に異変があったのであればもとより、報告書が示唆する主因が人為ミスだったとしても、それはなぜ起きたのか。作業員たちのキャリアに問題はなく、過労状態にあったわけでもないとしているが、あくまでそれらも「推定」である。ただ、作業手順や作業者間の意志疎通などに問題があった可能性を認めているが、そのようなマネージメントを行なったのは当の九電である。現に、事故が発生した場合はその10分後には県や地元市町村に通報すべきであるものが、約1時間遅れての通報となったように、そのような連絡体制ですら維持されていない。
「九電にはさらに原因追及してもらう」(原子力安全・保安院)とは言いつつも、経産省は基本的に原発を推進する立場にあり、「原子力部門関連事故ならともかく、電気系統のそれには専門部会を設けて検討するところまでは」(原子力安全委員会)というのが、現場を知らない官僚や学者の世界。原発という巨大システムをトータルに捉えて責任を持つ当事者は電力会社。それが、マネージメント能力を欠いたまま巨大原発建設は問題外。事故の真相解明まで増設論議は封印するのが、許認可権を持つ知事の責務だ。地方主権を謳う民主党政権だが、「エネルギー政策=国際政治経済」、そして「安全保障(命を守る)」という視点が見えないだけに、今後も注視したい。
(了)
恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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