Aさんは先生の言われるように薬を飲み続けた。通院を繰り返し、その度に昼間ボーっとしているといえば強めの薬を、夜眠れないという場合は薬の量を倍にするといった具合に治療は進んだ。診察代は1回あたり社会保険を適用して約1500円、薬は約1000円。1回の通院につき約2,500円の費用を負担した。毎週、毎月通うことで、かかる費用は莫大なものになった。しかし、Aさん自身は確かに友人の自殺で気持ちは落ち込んではいたが、このように薬を飲み続ける治療について、次第に疑問を持ち始めた。
「薬を飲むのはとても辛い。仕事中は眠たくなるし、仕事どころじゃなくなる。でも、飲み続けてもたいした変化はない。俺は元気だ。そもそも、たった1、2分の診療で何がわかるんだ。これはおかしい」とAさんは疑問に思い始めた。そして、勇気を出して恐る恐る通っている心療内科内の別の患者に話を聞くと、その患者も同じような疑問を抱いていた。なかには本当にうつ病になり、逆に症状が悪化したことで他のクリニックに通ったことで治った人もいた。
初診は5分間、2回目以降は大体1、2分程度という具合で先生との問診は終了。デリケートな病だけに、診療に疑問を抱く人たちは次第にひとり、またひとりと増えていき、Aさんら数名は被害者の会を結成して弁護士を立て、診療を受けたクリニックに対し法的な手段での抗議を検討し始めている。
「私の通っていたクリニックは本当に患者が多くて、先生はひとりで大変だったと思う。だけど先生の都合で午後休診になることが多かった。先生の都合で午前中に多数の患者さんを診療しなければならないため、数分間診療になったのではないでしょうか」とAさんは分析する。しかし、このクリニックは大きな問題行動も取っていた。
【矢野 寛之】