NET-IB NEWSネットアイ

ビーニュース

脱原発・新エネルギーの関連記事はこちら
純広告用VT
カテゴリで選ぶ
コンテンツで選ぶ
会社情報

経済小説

天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (100)
経済小説
2011年3月29日 13:45

<ライバル管理会社の攻勢>

 このころ、DKホールディングスのライバルである地元の管理会社が、こぞって当社の管理物件のオーナーに攻勢をかけてきた。何しろ賃貸管理業は、先に述べたように手数料率がほぼ5%で一定となっており、表面的なサービスはほとんど変わらない(実際には、質の高い管理会社と、質の低い管理会社の格差はとてつもなく大きいのだが、管理会社の質の良し悪しは会社案内パンフレットなどからは判断することができない)。管理会社が業績を伸ばすためには、管理物件を獲得して戸数を増やしてゆくよりほかないが、そのような業界なので簡単な営業では管理物件を増やすことはできない。その点、ライバルが弱った隙は、管理獲得のまたとないチャンスであり、各社が攻勢をかけてきた。
 何しろ賃貸マンションの場合、各物件に管理会社名と連絡先を明記したプレート(「管理看板」という)を掲げてあるので、どのビルがDKホールディングスによって管理されているかは誰の目にもわかる。そのうえ不動産は、それが誰のものかがわからなくなって混乱することがないように法務局に登記されており、誰でもその物件の登記簿を閲覧してその物件の所有者や、物件に融資している銀行を確認することができる。

 この状況に対してもっとも有効だったのは、先に述べたように当社が今後もきちんと入居者から家賃を集め、それをオーナーに送金することであった。逆にこのような状況でもっとも懸念されるのは、退職社員が顧客情報を持ち出したり、転職先への手土産としてオーナーに当社との管理契約の解約をけしかけたりする行為であった。これらの点については、現場は最大限の努力をした。その結果、それなりの管理戸数を維持できたが、もっとも起こってはならぬ事件が起こった。これは後述する。

<少し落ち着きを取り戻した社内>

 現場の最大の課題であるサブリースの一般管理契約への切り替えの合意書締結は、捺印が事後的になるものもあったが、メンバーの連日深夜までの作業の結果、12月中旬には落ち着きを見せてきた。それと同時に、認否・財産評定などに着手していった。しかし、まだ会社は民事再生というトンネルに入ったばかりであり、出口が見えるのはまだ先だった。また、認否書や財産評定の期限は1月末であり、年が明ければ根気を求められる作業が待っていた。さらに、年明けから、未だ経験したことのない事業譲渡の仕事も始まる予定だった。
 しかし一方で、民事再生前には銀行から毎日のようにあった問い合わせがなくなり、四半期決算と開示に追われることもなくなったため、その分、これらに腰を据えて取り組んでいこう、と考えながら激動の平成20年の年の瀬を迎えた。

ささやかながら心のこもった納会は深く印象に残った... 12月の年末年始休暇前の最後の夕方、全員で終礼を行なった。100人を超えていた社員が40人となり、こじんまりとした会社になった。
 黒田会長から冒頭挨拶があった。
「皆さん、今日は年末年始休み前の最後の終礼ということになりました。思い起こせばファンドの変調、大分ホテルの売却失敗から始まって、11月には民事再生を出し給料のカットを受けていただくなど、今年は皆さんにとっても会社にとっても本当に大変な年でした。しかし事業を継続するメンバーも固まり、サブリースの切り替えも進み、これから会社は徐々に落ち着いてくるものと思います。皆で一斉に契約切り替えに走った結果、かなりの率でオーナーが会社に残ってくれています。これからも、会長として無報酬ながら、何とかオーナーをつなぎとめられるように支援をしていきたいと考えております。
 今後のことについても、今、スポンサー候補がたくさん名乗りをあげています。東京の大手から地元の大手、それにファンドのようなところまで様々なスポンサーが来ていますが、私の気持ちとしては、できれば地元のスポンサーからの出資を受けて、これまでの本社でこれまで通り仕事ができるような相手先に事業継承をしたい。そのために、今後FAを立てて入札もしていきます。
 しばらくは、厳しい日々が続きますが、トンネルには必ず出口があります。もし、管理物件を9割残せれば、社員の給与をもとに戻したいと思います。その日まで、力を合わせて取り組んでいただきたい」

 すでに本社ビルの6階と7階は解約することを決めており、搬出作業中のがらんとした空間での終礼だったが、総務部の社員からの提案で、テーブルに近所のスーパーで買ってきたオードブルなどと会社で取引先からお歳暮としていただいたビールなどを並べ、ささやかな納会を行なった。また余興として、これまで会社で契約した携帯電話のポイントが溜まっており、換金は不可能とのことだったため、これらを景品と交換し福引大会を行なった。

 以前のように、頻繁に社内交際費で宴会をするようなことはもはや許されないが、私は新しいDKホールディングスは、給与水準はさほど高くなくとも管理事業で得られる日銭収入で、社員たちが肩を寄せ合いながら安心して仕事ができる会社を目指すべきと思っていたため、総務部の社員の仕掛けによるささやかながらも心のこもった納会は、深く印象に残った。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

≪ (99) | (101) ≫

※記事へのご意見はこちら

関連記事

powered by weblio


経済小説一覧
純広告VT
純広告VT

純広告用レクタングル


IMPACT用レクタングル


MicroAdT用レクタングル