「終わってみれば大山鳴動」と今回の候補者選定過程の混乱を評す向きがあるが、そうした評価は早すぎるといえよう。
まずは福岡県と議会の関係である。蔵内氏が出馬を辞退することで、「蔵内の政治生命」は終わったと言う人がいるが、それは間違っている。主流派は依然として健在なのだ。先にも書いたように蔵内氏の出馬辞退は分裂選挙になった際の蔵内氏の力の低下を懸念した古賀氏や周辺の県会議員たちの要請によってなされた。出馬辞退が報じられて以降、蔵内氏は今回の出馬表明によるダメージの回復に意欲的に取り組んだ。これまで作られてきた体制のタガが緩んできたことを今回実感した蔵内氏は、自民党県議団の結束の再構築に奏功した。30名を超える県会議員が蔵内氏に対して「今後も県政の中心にあって頑張れ!」というエールを送ったという話も漏れ伝わっている。
この力を示した一例が2月22日の旧筑穂町産廃訴訟における議会の決議である。この訴訟は福岡県が被告とされているもので、旧筑穂町(飯塚市)の産業廃棄物最終処分場をめぐって、廃棄物の撤去を含む改善措置を県が業者に講じるよう命じた福岡高裁判決を不服として上告した県に、議会が上告の取り下げを求める決議案を賛成多数で可決したものだ。「全国的にも異例」と県が言わなければならないような事態がなぜ現出したのか。
いわば住民無視の県政に対するチェック機能が議会に働いたということであるが、根底に今回の知事選擁立問題での意見の食い違いが横たわっていることは容易に推し測れる。議会に統一候補の選定を依頼しておきながら、経済産業省の依頼を受けるや否や、自らの院政への夢とともに小川洋氏を主要企業の経営者や連合などに紹介した議会無視の麻生渡知事の県政を議会が主体性を持ってチェックすることを始めたのである。あとから公明党が加わって四会派になったが、当初は三会派でもこの決議は可決するという動きがあったようだ。公明党がこの決議に加わったことで、知事を支える主流派は皆無になった。
県庁の執行部は慌てているらしいが、この議決は県と議会の正常な関係が生み出されたと評価しうるものである。小川氏が県知事になっても、この緊張した関係はたぶん変わらない。「大山鳴動」と評価してはならないというのはこうした見地からである。福岡県政を改革する第一歩はすでに踏み出されたのだ。
さらに震天動地な事態が起こるとの話もある。中央官庁とズブズブの天下り知事が選ばれようとしていることに憤懣やるかたない人物がいる。近い将来、かくてまだ第一幕すら下りてなかったことをわれわれは眼前にするかもしれない。
【勢野 進】
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