Aさんが通っていたクリニックはあまりにも患者が多いため、薬だけの処方が必要な場合、医師の診察をせずに診断書を書き、薬を処方していたという。これは明確な医師法20条違反行為である。
「ひとりでも多くの人が診察、そして薬の処方が受けられるというクリニックの先生の配慮なのかもしれませんが、逆にこのような行為は悪質な診療報酬の不正請求にあたるのではないか」と、Aさんらはまず厚生労働省に訴え、改善を求めた。しかし、Aさんらの訴えは厚労省のお役人たちには聞き入れてもらえず、重い腰を上げてもらえなかった。
次にAさんらは福岡県筑紫保健福祉環境事務所総務企画課に相談したところ、同課はただちに行政指導を行ない、現在のところ、そのクリニックは医師の診断なしで薬を処方していない。Aさんはこのような現状に警鐘を鳴らす。
「時代背景が複雑になり、ストレス社会になったからうつ病患者が増えているというようなマスコミの論調は間違っていると思います。まずは心療内科が患者に向き合う態度を改めることが大事なのではないか。私のように5分間のカウンセリングで精神疾患と判断される人たちを増やしてはいけない」(Aさん)。
Aさんのような数分間の診療時間で「うつ」と診断された人たちの話は、様々なホームページ上にも多く見られた。ちょっと気持ちが落ち込んだだけで、うつ病と診断し、治療を受けさせる。薬漬けにされたという苦痛の書き込みも多く散見された。診断が難しい病気であるのはよくわかるが、診療方法は見直すべきではないかと個人的にも考える。うつ病と自殺の因果関係は確証はないものの、数分間の診察で深刻なうつ具合が見抜けず病状を悪化させることで自殺につながりやすいという可能性は否定はできない。
問題の背景には、大半のクリニックがひとりの医師に対し、多くの患者が診察に来ているという現状がある。明らかに医師の数が不足しているともいえる。このことについて、医療関係者は、「精神科医の医師が不足しているのは深刻な問題です。ですが、うつ病というのは本人に自覚がない病気です。本人がうつではないと言っていても医師にはわかる場合もあります。あと、心療内科に訪れる人たちを全員"うつ病"と見る医師も多いです。不眠や不安などに悩んでいる人はまず心療内科に行くより、近くの内科に言ったほうがベストな治療法が見つかるかも」と話す。
すべての心療内科が悪質とは言わないが、うつ病患者が急激に増えた背景には、根深い問題が潜んでいるようだ。もっとも心の悩みを抱えて心療内科へ相談に行くのは辞めたほうが良いだろう。まずは身近な肉親や友人に打ち明けることが先決ではないだろうか。
【矢野 寛之】