楽しい酒、悲しい酒、やけっぱちの酒エトセトラ、酒にもいろいろあるけれど、この間の酒には、小生かなり幸福な気分で酔っ払ってしまった。翌日の朝が早いので終電に駆け込み、ほっと一息ついてご就寝。気づけば二駅ほど寝過ごして、そこから歩いて帰る始末。なんでそうなったのかいうと、とどのつまり、若くてきれいなママさんに酔っ払ってしまったのである。
その日は、ホームの中洲を離れ、ややアウェイな西中洲へ。那珂川を挟んで、中洲が博多区で西中洲が中央区。架かる橋の名が『福博であい橋』であるからして、同じ中洲といえども福岡と博多に分かれたふたつの飲食店街は雰囲気も少し違う。賑やかな中洲とはうって変わって、西中洲は落ち着いた雰囲気。どちらかと言えば高級感をただよわせる飲み屋が中心で美食家が集う料理屋もある。近年建てられた新しいテナントビルにはセンスのいいお店が軒を連ねており、おとなの隠れ家的な店が多い。
小生が迷い込んだのは3年ぐらい前からやっているバーで、30代前半のママさんが切り盛りしていた。初めて店を持つそうだが、商売にはかなりのこだわりがあるようで、居抜きの内装では満足せずに壁をぶち抜いてスペースを広げたという。特長的なのはうす暗いところが多いほかの飲み屋とは対照的とも言える照明の明るさだ。これによって店には清潔感があふれ、店の女の子も皆きれいどころということもあって、美人を目にすると頬が赤くなる自称"純粋無垢"な小生は、目のやり場に困ってしまう。
一瞬でその店を気に入ってしまった小生は調子に乗って「記事で紹介してもいいか」とママさんに尋ねた。すると「たいへんありがたいのですが、紹介されたら困るんです」というのである。何でも客がいっぱいで常連さんをお断りすることもあるとか。これ以上、新規客が来られると、常連客に悪いというのだ。そう言われれば、小生がいる間、入れ替わり立ち替わりで客が入り、店はほとんど満席状態であった。
壁をぶち抜いたといっても、その店に客が入れるのはせいぜい10人くらいまで。小生の記事に集客効果があるかどうかは疑問だが、あえてPRに力を入れる状況でないことは確かだろう。そして、その根っこにあるのは『お客様第一主義』の考え方。だからこそ『今』があるのだと思う。
そんなワケで、そうしたママさんの心意気にも心酔し、気分よく酔っ払ってしまった。余談だが、もしかしたらあれは夢ではないかと思い、次の日も行ってしまった。
【長丘 萬月】
長丘 萬月(ながおか まんげつ)
1977年、福岡県生まれ。雑誌編集業を経て、2009年フリーライターへ転身。体を張った現場取材を通して、男の遊び文化を研究している。
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