「いまの東電社内には無力感というか、スネたような空気がある」というのは東電社員と親しいA氏。「東電へ乗り込んだ菅(首相)に『東電が悪い』と怒鳴られて以来、どうせ最後はオレたちが悪者にされるんだ、という気分になっていますね」(A氏)。
地震翌日、管首相は被災地視察して福島第1原発を訪れたが、「政治的パフォーマンス」「事故対応の邪魔をしただけ」と評判はきわめて悪い。地震直前には総辞職寸前まで追い込まれていながら、震災を奇貨として菅内閣の延命を図る姿勢が露骨だからだ。さらに事故対応で陣頭指揮をとる姿をアピールするためか、自ら本部長に座る統合対策本部を東電本社に置き、同社に乗り込んだのが地震4日後の15日。すでに3号機も爆発、2号機も冷却剤(水)喪失が確実視されていたとき。こうなったのも東電が悪い、とばかりにカンシャク玉を破裂させた。
そんな菅内閣の事故対応はいずれ総括されなければならないが、「一番悪いのは確かに東電ですよ。地震後の炉内チェックが甘すぎた」というのは別の東電関係者だ。
これだけの大地震だ。緊急停止した原発がどうなるか。マグニチュード6.8と今回よりはるかに小規模だった4年前の中越沖地震で、同社柏崎刈羽原発は7基すべてが1年以上全面停止を余儀なくされたばかりである。今回の巨大地震が何をもたらすか、容易に想像がつく。柏崎刈羽では見た目の建物被害はなかったが、内部では放射能漏洩はもとより、各種システムや機器の不具合が連日のように見つかった。
それ以上の重大事態が予測される今回は、現状把握のためのチェックを入念に行なう必要がある。まず中心部の圧力容器、それを覆う格納容器という原子炉内がどうなっているか。それを知るためには建屋内の気圧状態などを調べるが、それら緊急性を要する点検作業に手抜かりがあったのが今日の事態を招いた最大要因だろう。
巨大地震と津波で自前電源はもちろん、非常時用ディーゼルも不能になり、暗闇のなかでの点検作業が大変なのは当然だが、おざなりに済ませられる事態ではない。それは柏崎刈羽原発で経験しているはずだが、その学習効果がまったくなかったのはどうしてか。
福島第1は1号機が稼働して40年、2、3号も30年以上という廃炉して当然の老朽原発。それをムリヤリ働かせてきた東電と承認した政府の責任は重いが、何よりも問われるべきはカネに飽かせて原発の安全神話を流布してきた東電を筆頭とする電力業界の責任だ。業界が原発の運転を始めて40年。神話に反する事故や故障、不祥事は数限りなくあっても、隠せると思えば隠し、バレればひたすら過小評価することに腐心する。電力社員たち自身、神話を信じていないせいか、不祥事の取材には常に隠そうという姿勢が見え隠れし、卑屈な印象を拭えない。その一方では巨額な広告費でメディアをコントロールし、それぞれの給電エリアの政官界に君臨している尊大さは隠さない。
さらに独占企業としての電力会社は組織自体が官僚化し、経営トップ以下、自らの過ちを認めようとしない。しかし、これまでの所業すべてが虚構でしかなかったことが明らかになったいま、全電力会社は国民に土下座して謝るべきだ。東電は「官邸がすべて指揮するというならどうぞ」とばかりにスネている場合ではないだろう。
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恩田 勝亘【おんだ・かつのぶ】
1943年生まれ。67年より女性誌や雑誌のライター。71年より『週刊現代』記者として長年スクープを連発。2007年からはフリーに転じ、政治・経済・社会問題とテーマは幅広い。チェルノブイリ原子力発電所現地特派員レポートなどで健筆を振るっている。著書に『東京電力・帝国の暗黒』(七つ森書館)、『原発に子孫の命は売れない―舛倉隆と棚塩原発反対同盟23年の闘い』(七つ森書館)、『仏教の格言』(KKベストセラーズ)、『日本に君臨するもの』(主婦の友社―共著)など。
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