震災対策は何と言っても緊急を要する。人命にもかかわり、日本を見る世界の信用にもかかわる。現在、参議院で審議中の2011年度予算案では子ども手当に2兆2,000億円、農家への個別所得補償に6,000億円などが計上されている。そのため、これらに予備費を加えれば5兆円を上回る資金を震災対策に即座に投入することが可能となる。
実は、民主党の目玉政策とされてきた子ども手当をめぐっては、国会審議において与野党対立の原因となっており、地震発生時においても予算関連法案の成立にメドがたっていなかった。このままでは、赤字国債の増発に頼らざるを得ない状況になっていたため、自民党など野党からは「バラマキ」との批判が根強かったのである。
言うまでもなく、現在では税収を大幅に上回る国債の発行の結果、国と地方の公債発行残高は800兆円を超えている。これは、わが国のGDPの1.5倍以上であり、国際的に見ても日本の信用をおとしめる可能性が高まる一方であった。こうした状況の下で、復興対策費用として新たな国債の増発に踏み切るということは、長期的な観点から見ても、わが国の財政再建を一層困難なものとするため、決して望ましい選択肢とはいえない。
となれば、やはり本年度予算の予備費と子ども手当などの凍結により、緊急の復興財源を確保する道を最優先すべきである。今回の巨大地震で甚大な被害を受けた岩手、宮城、福島の3県合わせての経済規模は、阪神淡路大震災で大きな被害を受けた兵庫県とほぼ同じ、と見なされている。これに茨城県や青森県の一部が受けた被害を加えれば、地震による直接的な経済被害だけで10兆円を超えた阪神淡路大震災を上回ることは論を待たないだろう。
アメリカのゴールドマン・サックスが行なった被害額の試算によれば、倒壊した11万棟の建物や生産設備などハード面だけで16兆円とのこと。この数字が正しいとすれば、被害額はGDPの4%、国富の1%ということになる。思ったほどの影響ではないはずだった。ところが、日本の株式市場からはすでに約50兆円が失われている。日本株のパニック売りが津波と同じようにすさまじい勢いで進んだようだ。実態より大きな被害イメージが膨らんだ証拠であろう。こうした過剰反応に負けることなく、日本経済を立て直す着実な方策をわれわれは考えねばならない。
【浜田 和幸】
<プロフィール>
浜田 和幸(はまだ かずゆき)
参議院議員。国際未来科学研究所主宰。国際政治経済学者。東京外国語大学中国科卒。米ジョージ・ワシントン大学政治学博士。新日本製鉄、米戦略国際問題研究所、米議会調査局等を経て、現職。2010年7月、参議院議員選挙・鳥取選挙区で初当選を果たした。
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