テーマパークでの一方的に文化を輸入して消費するだけではなく、文化をつくる技術を学べる場を福岡に置きたい。イメージとしては、ハリウッドの日本支所をつくるということ。それが山崎氏の提案の骨子なのだ。
「学ぶ場が非常に大切です。そこから人材が生まれ、優秀な卒業生はハリウッドの現場で活躍する機会も与えられるでしょう。若者が夢を持てるようにすること、それによって夢のある福岡が生まれること。この2つが何よりも重要だと思います」
映画産業は実に裾野が広い。一本の映画を撮ろうと思ったら、脚本、撮影、音楽、音声、役者、衣装、大道具、小道具、メイクなどなど、多くの人が関わることになる。それぞれ特殊な技術であるため、特殊な場での勉強が必要で、これまで日本では映画にかかわる職場に就職して徒弟制度のようなかたちで学ぶことが主だった。それが学校形式にすることで多くの人材を育成できるようになるのだ。加えて、この教育プログラムは映画にとどまるわけではない。エンターテインメント全般を学ぶことを想定している。ラジオやテレビの現場の即戦力が排出されていくことになるのだ。日本のエンターテインメントの水準は必ずしも低いとは言えないが、米国のやり方を学ぶことでさらにプラスに働くことはあっても、マイナスになることはないだろうと思われる。
「映画のテーマパークに隣接させることが大事です。学ぶためには時間がかかります。その間、学生と言っても人間ですから、食べることも寝ることも必要ですよね。そこで、勉強の合間にパークで働くことができるシステムを提案したいと思っています。自分の学んでいる技術を活かして働き、実地訓練のように身につけていく。そして巣立つ頃には世界水準の技術を習得できる。これは私のアイデアではありません。ハリウッドでは一般的な手法で、インターンシップ制度と言うのですよ」
2006年、山崎氏は福岡にエンターテインメント教育施設を誘致することの有用性を認知してもらうために、UCLAエクステンションや映画の現場で活躍している方たちを呼び講演会を開いた。そのなかで、翻訳家の戸田奈津子氏はこう語った。
「ハリウッドでは有能な人を広く求めています。言語能力は関係ありません。能力やセンスがあればいいのです。福岡にこのような教育施設が設けられることは、素晴らしいと思います」
人を育てることが地域を育て、国を育てる。教育の重要性は誰も反論がないはずだ。ただ、何を学ばせるべきかという部分には、議論の余地がある。ひとつのアイデアとして、映像などエンターテインメント職人を育成する、教育プログラムがあってもいいのではないか、ということである。それによって得られるのは、人材と、その人材が生み出すであろう数多くのコンテンツだ。これから先、このコンテンツ産業こそが日本を支える大きな武器になる、と山崎氏は読んでいるのである。
【柳 茂嘉】
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