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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (103)
経済小説
2011年4月 1日 14:14

<事業譲渡の準備>

 事業譲渡のFAについては地元の会計事務所のグループの金井管財コンサルタンツ福岡という会社に委託することとしたことは先に述べた。この方針に則り、年初に契約を締結し、早速準備に入った。事業譲渡は、資本取引ではなく、顧客や取引先、従業員などとの契約や事業に供している固定資産などをそれぞれ個々に継承することによって、会社の一事業を他社に売却するやり方である。しかし資本取引ではないものの、事業を売買することに変わりはないため、M&Aの一類型であると考えられる。

 会社の主要な一事業を譲渡しようと思ったら、大きく会社分割と事業譲渡の2方法が考えられる。会社分割というのは、簡単にいえば移そうとしている事業を新しい会社に移し、その株式を売ることで事業の所有者を変える、というやり方である。この場合、会社の法人格それ自体を売るため、その会社の取引先との債権債務も包括して売ることになる。これに対して事業譲渡は、先に述べたように事業を構成する資産や契約書の一つひとつを個別に継承して総額いくら、というやり方を行なう。このため事業譲渡では、各取引先と契約を締結し直したり、合意書を締結するなどの必要がある。社員についても、旧会社を退職して新しい会社に入社する手続きを行なう。不動産や車両なども一つずつ値付けして継承し、所有権移転登記や車検証の変更を行なわなければならない。

会社分割の場合は、資産や負債は新設した会社が包括して継承する... 会社分割の場合は、資産や負債は新設した会社が包括して継承するため、いちいち各取引先と契約を締結しなおすような手間はない。反面、買い手からみると会社分割では旧法人の契約関係が包括的に継承されるため、口約束や密約、簿外債務なども継承されてしまう。この点、事業譲渡なら、契約を締結しなおしたものだけが継承対象なので、そのような懸念を排除できる。
 当社の場合、数多くの取引先やオーナーと地位譲渡契約の締結が必要になるため、疲弊した現場の空気を考えると会社分割が便利なようにも思われた。しかし、会社分割は事業譲渡と異なり、民事再生法によりすばやく実行できる恩典が与えられておらず、再生計画案の認可を得た後にしか実行できないということであった。このため会社分割方式ではさらに数カ月の時間がかかり、この間にさらに管理戸数の減少などにより、事業価値が毀損する可能性があったため、当初の方針どおり事業譲渡を断行することとした。

 M&Aの入札を行なうには、まず移転する事業の詳細を理解しやすいように要領よくまとめた資料集(インフォメーションパッケージ)を作成する。このなかには開始決定日時点の当社のBS(内訳明細含む)に、各債権債務が継承対象か否かを表示したものや、管理物件一覧、継承予定の契約一覧、事業計画などを集約してある。これらは私が資料を収集し、それをFAに送り、第三者から見てわかりやすいように適宜修正を行ないながら2週間程度でまとめていった。これにFAが作成した入札要綱なども付け加えた。当社の開始決定日時点のBSには、サブリース物件で当社がオーナーに差し入れている敷金や、当社が入居者から受け取っている預り敷金も計上されているため、これらがどのような性格のもので、サブリース契約が現時点ではどのように一般管理契約に切り替えられているかの説明書も添付した。

 インフォメーションパッケージができたら、入札の開始である。入札要綱のポイントとしては、二次に渡っての入札を行なうこと。一次入札は原則としてインフォメーションパッケージにある内容の範囲で事業を評価し、譲渡対価の入札を行なう。一次入札を通過した会社に対しては、各社3日程度のデューデリジェンス期間を設けた。この期間中は本社の会議室のひとつをデータルームとし、取締役会議事録、稟議書、管理契約書、取引先との各種契約書、経理システムなどを自由な閲覧に供することとした。日程的には1月下旬に一次入札、2月中旬に二次入札の期限を設定した。

 以上のような方針をまとめ、私とFAで各銀行債権者に対して、公正な入札手続を行ないたい旨の事前説明を行なっていった。各銀行とも、公正な入札により高い譲渡価格となることを重視するとのことであった。時あたかも日本郵政の「かんぽの宿」の一括売却問題がマスコミをにぎわわせていたため、公正な入札はとくに重要であるように思われた。
 事前説明ののち、入札を実施する旨を当社のホームページに掲示すると同時に広報対応することにより、経済紙の地元経済欄に記事が掲載された。お陰で入札情報が周知され、入札がより公正になったと思う。
 以上のような手続を経て入札要綱を開示したところ、実に20社からの問い合わせがあり、そのうち17社が守秘義務念書を差入のうえ、インフォメーションパッケージの交付を受けた。その中には、地元大手の公益企業もあった。これらのうち、応札したのは5社であった。

(つづく)

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