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経済小説

天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (110)
経済小説
2011年4月 8日 10:54

平成21年3月「誰が社長をするか」

<裁判所の許可>

 先に述べたように民事再生法には、再生会社は再生計画の提出を待たず裁判所の許可を得て事業譲渡を実行できる、との規定がある。通常の会社が主要な事業を売却しようと思ったら、株主総会でその旨特別決議を行なわねばならず、株主の多い会社では機関決定に時間を要する。当社の場合は上場廃止時点で800名以上の株主を抱えていた。しかし民事再生法の規定によれば、当社が事業譲渡をするために株主総会を開催する必要はないのである。

 そこで二次の入札を経て、事業譲渡先がファンド会社ナンバショットが支援する株式会社セントラルレジデンスと決定したあと、2月末にDKホールディングスとセントラルレジデンスで事業譲渡基本合意書を締結し、同時に裁判所に対して事業譲渡の許可申請を提出した。通常、裁判所は事業譲渡の申請を受けると主要な債権者に意見を参考にして事業譲渡を許可する。ところが今回裁判所はやや慎重な姿勢をとり、事業譲渡に関して全債権者に説明資料を送達し意見のある人に提出を求めたほか、3月下旬に説明会も開催、これらの結果を参考に結論を出す、と言い出した。たぶん当社より早く民事再生を出した不動産会社もスポンサー選定が二転三転した事件があったうえ、当社の場合は更に関係者が多い大型倒産であったことなどから、慎重を期したのであろうと思われた。

 実際には私は、FAと同行の上、主要銀行に入札結果を説明し感触として特に否定的な反応は受けなかった。しかしとくに意見のない先でも、あえて意見書を出せ、といわれると組織としての意見を出さざるを得ず、そうすると大組織のなかではおのずと否定的な意見も出ているようであった。そこで、当社としては説明会も開催し、債権者の理解を得るように努めた。また銀行の一部からは、会社だけでなく弁護士からの説明もほしいという要望もあったので、これらも先生に対応していただいた。こうした努力の結果、4月中旬に無事事業譲渡の許可が下りることとなった。

<牧田社長就任>

問題となったのが新会社の社長人事であった... 株式会社セントラルレジデンスは前出の若手役員2名とオーナー数名で設立したのだが、その際に問題となったのが新会社の社長人事であった、とのことである。もともとオーナーズクラブのなかで新会社の設立案が浮上したのだが、しかし経営課題山積の倒産会社の事業を継承し、その社長として会社の債務に個人保証もしながら舵取りをしていくことは、相当の困難が予想されるため、いざ会社を設立してみると火中の栗を拾う人がいなかったのだそうである。最終的には、DKホールディングスの不動産管理事業の責任者であった牧田取締役が、新会社の代表取締役社長として立つことになった。DKホールディングスのもうひとりの若手取締役であった営業部長の稲庭取締役も、新会社の常務取締役に就任することとなった。

 DKホールディングスの営業本部の役員のなかで、牧田取締役は唯一数字を組み立てることに長けており、勉強家でもあった。昨年、私は管理担当の取締役として、牧田取締役には彼が担当する不動産管理事業の収益改善計画の立案を求めた。彼は、私にいろいろな要点を聞きに来つつよくその役割を果たし、作る資料のレベルもめきめきと向上させた。そういう牧田取締役が新会社の社長に就任すると聞き、私はたいへん心強かった。稲庭取締役はやや情緒的にすぎる面があったが、営業力もあり、熱意では右にでるものがいなかったし、今後は経営管理についても勉強したいということも言っていたので、期待できると思った。

 私は新会社設立にあたっての様々な準備については、時折相談には応じたが主体的に関与することは避けた。牧田社長も総務部や経理部の若い社員と相談して、新会社の決済基準や会議体などの運営ルールを決めていった。また新会社を支援していたナンバショットインベストメンツのファンドマネジャーも、牧田社長が率いる新会社が早期に自立していくことを望んだため、牧田社長の作業は多忙なものとなった。しかし牧田社長は多忙ななかでも、会社経営の根幹となる事業予算を自分で組み立てていった。そのようにすることで牧田社長は、新会社を軌道に乗せることは十分に可能であると確信したのではなかろうか。

 やはり会社の共通語は会計である。私はDKホールディングスにおいて、この共通語を古参から若手までの役員に浸透させることを心掛けてきた。そしてその浸透度合いがいまひとつであったのは、私の努力不足でもあった。しかしそのなかでも、若手のふたりは特に高い吸収力を示してくれた。このふたりが、会社の共通語である会計をさらに理解して、それを新会社に浸透させていってくれたら本望だと感じていた。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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