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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (111)
経済小説
2011年4月 9日 07:00

<管理部門の幹部の退職>

 事業譲渡先が決定しこれから事業譲渡の実務に入っていく、というときに経理部長から相談があるとのことであった。そこで、別室で聞くこととしたが、その内容は転職先が決定したので退職したいとのことであった。
 この経理部長は私よりも7年ほど先輩で、DKホールディングスにも上場準備の頃より入社し、社歴が長く、その間に課長を経て部長まで昇進してきていた。そのためいろいろなことを知っており、新会社にも必要な人材であると考えていた。反面、得意分野は財務であり、経理の実務からは遠ざかっていたので新会社の少人数体制になってからの適応には若干不安があった。とくに、新会社の若い役員がベテランの経理部長を使いこなすか、という点では心配された。しかし私は兼ねてより社員全員の再雇用をスポンサー選定上の目標にしていたし、本人も十分新環境に適応しうると考えていた。が、本人からは民事再生が峠を越したのに伴い、次に行きたいということであったので、これを了承した。

 同じころ、経理部の課長も、某大手企業から招聘されているとの相談を受けていた... 同じころ、経理部の課長も、某大手企業から招聘されているとの相談を受けていた。
 この課長は、民事再生前は主に財務を担当しており、当社が不動産を仕入れる際の銀行借入の調達を最大の任務としていた。努力家かつ誠実で明朗な人柄で、どんなときでもどんな相手先にも誠意を持って対応していた。新会社では当面銀行借入の仕事はないと思われたが、本人は会社の清算業務には関心があり、やりたいとの希望を私に打ち明けていた。そこで私はこの課長も新会社に転籍させ、そのうえでDKホールディングスから新会社に経理業務を委託するスキームを考えていた。やはり社員の立場としては、今後清算する予定の会社に勤務する、というのは不安だろうからである。

 ところが彼はその後、銀行の紹介と思わるが、某大手企業から誘いを受けた。そこでの仕事は不動産の財務であるので「是非やりたい」との心情を私に吐露した。
 その大手企業は、簡単には入社できない公益企業であったので、本人の人生を思い、私もこの課長の転職に賛成した。ただ4月末日の事業譲渡に向け、継承資産・負債などの確定作業が山場となっていたので、何とか最終出勤日を延長し、それまでに何とか仕上げてくれと頼んだ。その後、新会社の経理の管理職が不在となるが、当面は現在の経営企画課長を新会社の管理部長として登用し、必要なときは私からの手助けも行なうこととし、その体制で事業譲渡を乗り切り、その後、新会社で経理職を採用することとした。

 このように民事再生の過程では、経営陣は会社として必要なリストラを断行しなければならない一方で、常に戦力となる社員が転職していく、というリスクにも直面する。社員の一人ひとりに生活があり家庭があるのでやむを得ないことである。とくに幹部社員には、個人としての立場と業務を遂行する責任者としての立場があり、民事再生の混乱の中でも各自逡巡はあろう。私は経営陣として各社員の生活を守れなかった責任が厳然としてあるので、かつての部下が次の仕事を探して転職していくことを止めることはできなかった。

 皆、不況が厳しい折の転職活動をしていたが、日常的に誠実な仕事をしていなかった人は、やはり如何に取り繕っても見透かされてしまい、なかなか次の仕事を見つけられなかった。逆に、この経理の課長のように常日頃より職務に忠実に、誠意を持って取り組んでいた人はそういうよい風評が自然に流れ、その責任感を買われて自分から求めずとも自然にいい仕事がついてくるものだと思った。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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