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自立する地域社会

地域アイデンティティー再生拠点~長崎県美術館
自立する地域社会
2011年4月 9日 07:00

 2005年春、長崎市民の憩いの場である「長崎水辺の森公園」の一角にオープンした「長崎県美術館」。「呼吸する美術館」をコンセプトとする同館は、美術館という枠を超え、地域の活性化を目指す街のシンボル的な存在となっている。

長崎美術館

 長崎県美術館のガラス張りの現代的な建物は、とても明るく開放的。設計を手がけたのは、建築家の隈研吾氏。長崎の石畳をイメージした石材が内外装に使われていたり、波佐見焼の陶板を使用した照明が使われていたりと、現代的なつくりながらもうまく地域・街との調和が図られている。

橋の回廊 同館は運河を挟んで、西側の「ギャラリー棟」と東側の「美術館棟」で構成され、2棟は「橋の回廊」と呼ばれる空中回廊で結ばれている。屋上庭園は館内からも外付け階段からも自由に出入りでき、長崎港を一望できる。盛り土の植栽や緑の芝が隣接する「水辺の森公園」の緑と一体化し、さながら公園の一角に設けられた展望台のよう。屋上庭園を含めて自由に内外を行き来でき、回遊性、開放性が重点的に考慮されている。

ロゴマーク 余談だが、デザイナーの原研哉氏が手がけた同館のロゴマークは、建物の特徴であるルーバー(縦格子)がモチーフ。マークとしてだけなくモーション・グラフィックスとして動くことも前提につくられている。情報や刺激を吸い込み、新しいかたちに変えて再び発信していく「呼吸する美術館」を表現するものだ。

 長崎県美術館を単に「美術館」として捉えた場合、一般的な美術館に比べて、特別優れているというわけではない。同館の主な収蔵作品は、地元・長崎ゆかりの美術品と、第二次世界大戦中に特命全権公使としてスペインに駐在した須磨弥吉郎が収集した「須磨コレクション」を核としたスペイン美術。常設展示で長崎出身の芸術家の作品や長崎の工芸品の展示を行なうなど地域の独自色は打ち出しているし、もちろんこれらの作品群は大変すばらしい。しかし、同じように各県・各地域の作品展示を打ち出している美術館は珍しくなく、その点においての同美術館の優位性は特別ではない。

 優れているのは、同館が地域の交流拠点としての役割を担っている点だ。基本的に自由に出入りできる館内には多くの人々の姿が見られ、公園と一体化している館外にも散策途中の人々が多く足を運んでいた。館内を見てみると、ロビー奥にある「県民ギャラリー」には県内の絵画教室や小学校による絵画や大学の卒業制作の展示が行なわれており、こちらもなかなかの盛況ぶりだった。空中回廊・運河上に位置するカフェも満席状態で、眼下に運河を眺めながら午後のティータイムを過ごしているようだった。ひとりで訪れているような子どもや小さな子どもを連れた母親の姿もあり、市民センター・交流拠点的な役割も兼ね備えた美術館という印象だ。

 同館の前館長であり、立ち上げに尽力した伊東順二氏は、「長崎県美術館の立ち上げにあたっては、基本的には『タダの美術館』を目指しました。一般の人々が自然に流入してくるようにするには、金銭的な境界線をなくし、遊び場になるような美術館にすることです」と話す。

長崎美術館 実際、この試みは成功し、民間調査での支持率が95%ほどになるなど、同館は市民が気軽に訪れる美術館になっている。また、基本的にタダにした分、カフェ、ショップ、駐車でそれを補い、トータルで見ると利益も出ているという。

 同館内の図書スペースでボランティアを行なっていた女性の話によると、休日やイベント時による増減はあるものの、来館者数はコンスタントに多いという。また、同館では市民ボランティアが運営を支えているそうだが、ボランティアの再募集をかけるたびに、市民からの応募が殺到するという。やはり、市民からの支持率はかなり高いようだ。

 美術館でありながら、その枠組みを超えた機能で市民に親しまれている長崎県美術館。地域の芸術・文化を掘り起こし、その醸成を行なうという美術館本来の役割と、地域に根ざし、現在息づいている人々の生活を活性化させるための交流拠点としての役割―そのふたつがうまく融合し、今までの西洋文化啓蒙型とは違う新たな方向性を打ち出した美術館モデルとなっている。

 人、地域、芸術、文化がつながり、それぞれが行き交いながらときに融合する長崎県美術館。今までにない新しい美術館の在り方―「呼吸する美術館」のカタチがここにある。

【坂田 憲治】

長崎県美術館(2005年4月23日開館)
長崎市出島町2-1
TEL 095-833-2110
FAX 095-833-2115
http://www.nagasaki-museum.jp


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