―アドバルーンは上げたけれど、その後の操作がまったくできていないということですね。そこで"観光"についてお聞きしたいのですが、福岡を仮に"観光都市"とした場合、売りは何なのでしょうか。
松原 博多港の出入国者数は、09年こそリーマン・ショックの影響で若干落ちましたが、07年以降は毎年約85万人の出入国者数で、10年は87万3,000人と過去最高を更新しました。これは、国際旅客の拠点としては空港を含めて全国7位、港湾ではトップの実績です。
中心となるのは釜山との間の定期航路、カメリアとビートルですが、アジアの急激な経済成長や訪日観光ビザの緩和などを背景に、08年から中国発の東アジアショートクルーズ船(1週間)が博多港に寄港するようになりました。
この数年は年間60回以上寄港しており、博多港にとってアジアと九州を結ぶ海の玄関口としての人流・交流機能を高める契機となっています。
江頭 中国から考えたとき、博多港はショートクルージングができる一番良い場所です。上海から1週間のクルージングをしようと思ったら、地政学的に見ても、どうしても博多港が入るわけです。
―クルージングという観点で言えば、たしかにそうですね。
星野 福岡は戦略的なロケーションであることは間違いありません。クルージングも、物流も、すべてにおいて。それを活かしきっていないですね。
―ただ、観光を意識した街づくりをするんだとは言っても、具体性が見えてこないのですが。
星野 福岡は、サービスの点で非常に不十分なところがあります。ミクロの話になって申し訳ないですが、少し前に上川端商店街に行き、いろいろとヒアリングしてきました。私が参加するプロジェクトの一環で、海外の留学生と日本人の学生を8人で4ペアつくり、上川端商店街、新天町商店街、天神地下街、キャナルシティの4施設・約540店舗の外国人対応がきちんとできているか外形的な調査をしていくというものです。
たとえば「銀聯カードが使える」「ウェルカムという表示がある」「メニューが英語表記」などが1つでも当てはまれば外国人対応ができている、というのを基準にした場合、どれくらいができていたと思いますか。驚くことに1割超しかなかったのです。
私たちが外国に行ったとき、その店が何をしているかわからない、歓迎もない、カードを使えるかもわからない、商品の価格もわからない、そんな状況なら買い物すらしないでしょう。そもそも、福岡市は外国人を受け入れる体制が何もできていないのです。
そこにきて年間60隻以上のクルーズ船が寄港し、10万人の外国人が乗降してくれる、最大のときは80万人が高速船で日韓を往復してくれる―こうした人たちをまったく活かしきれていないのです。
―東京に来る中国人や韓国人が秋葉原で何十万円、何百万円というお金を落とすような話を、福岡ではまったく聞きませんよね。クルージングで来た人たちがどこに行ったのかと不思議に思うくらいです。
星野 クルーズジングで来た人たちが使うお金は、1人当たりたった3万3,000円です。福岡市が出している統計なので間違いないと思いますが、これはデジカメ1個買ったら終わる値段です。ショートクルージングで時間が限られており、買い物に使える時間が少ないというのも致命的な問題ですが、それ以上に、物を買ってもらうという仕組みそのものがないわけです。
江頭 中国からのクルージングは、昔の日本人の団体旅行のような感覚でしょう。ですから、大きな買い物をするツアーという意識はそれほどないと思いますが、次回に小グループで来てもらうのをどう考えるかが大切です。早く、個人旅行でも対応できるような観光インフラを整備すべきですね。
【文・構成:徳田 仁】
<出席者> | |
九州大学大学院経済学研究院 教授 星野 裕志 氏 | |
博多港ふ頭(株) 代表取締役社長 江頭 和彦 氏 | |
国土交通省九州地方整備局 港湾空港部長 松原 裕 氏 | |
司会進行 中村 もとき 氏 |
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