ソフトバンクの孫正義社長は4月20日、個人資産10億円を拠出して自然エネルギーの研究や政策提言を行なう財団を設立することを明らかにした。「危ないとはいえ原発がないと成り立たない」と思っていたが、震災による福島第一原発事故をきっかけに考え方を全面的に改めた。「ただ原発を闇雲にやめろというのではなく、代わりのエネルギーの議論をしよう」―通信業界の風雲児の視線はいま、自然エネルギーにある。
孫氏は、20日に行なわれた民主党の東日本震災復旧・復興検討委員会の第5回復興ビジョンチームに招かれ、「エネルギー政策の転換が必要だ」と力説した。彼が注目したのは、世界の原発は平均22年で廃炉しているにもかかわらず、日本は廃炉を先送りして福島第一原発の1号機は運転開始から40年も経っている、2~6号機も軒並み30年以上経過している、という点である。
経済産業省・資源エネルギー庁はこれまでこうした老朽原発を廃炉させずに、「高経年化対策」と称する小手先の修繕で延命を図ってきた。もちろん、電力会社の"延命させたい"という意向に沿ってのことである。減価償却が終わった原発は、発電すればするほど儲かるからだ。
これを孫氏は「40年以上経過した原発は廃炉にするべきだ」と主張した。「圧力容器に中性子がぶつかり続け、40年も経つとだいぶもろくなるんですね。40年経つと寿命だと。40年経っても使い続けている国って日本ぐらいで、世界的には稀なんです。ですから40年経ったものから順次廃炉し、不足するエネルギーは代替の自然エネルギーでまかなうようにしましょう」。
反原発派が唱えるように単純な脱原発ではない。会社を経営する現実主義者の彼は、発電電力の30%を占める原子力を即座にやめることは不可能と知っている。一挙に太陽光など自然エネルギーが原発の穴埋めをできるわけがない。そこで老朽原発の退役分を新しい自然エネルギーで順次代替しようという漸進的な案を披露した。
一般的に自然エネルギーの発電コストは割高とされている。1キロワットあたりの発電コストは、原子力が5~6円、火力が7~8円なのに太陽光は49円もかかる。しかし火力発電所の燃料であるLNGや石油は資源高で価格は高騰し、コストは今以上にふくらみそうだ。原子力にいたっては、それまで想定していなかった今回の事故の補償債務や廃炉費用、さらには放射線廃棄物の処理コストなど上積みされる金額は巨額になりそう。となると、「とても原子力が経済的とはいえない」というのが孫氏の結論である。
【尾山 大将】
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