再選を目指すオバマに立ちはだかるのは、外交と内政の課題である。オバマが外交・安全保障の分野で真っ先に公約として掲げたのは、キューバのグアンタナモ米海軍基地にあるテロ容疑者の収容施設の閉鎖であったが、これが真っ先に頓挫した。理由としては、米国内にも海外にもそのような「テロリスト」の容疑をかけられた人々を引き取るところが何処にもなかったということである。
ただ、ブッシュ政権の遺産であるイラクからの撤退という公約は開始されている。また、ロシアとの関係は改善されている。一方、アフガニスタンからパキスタンに広がりを見せた「テロとの戦い」は、その分野の主要な政策担当者であったリチャード・ホルブルック特使が去年12月に急死してしまったこともあり、ほとんど手付かずで放置されている。
今後の展開は、地元の武装勢力のタリバンやそれと結託しているパキスタンの情報機関ISIとの交渉を誰がやるかどうかに掛かっているのだが、アフガニスタンに侵攻した欧米勢力は19世紀の大英帝国、20世紀のソ連といずれも泥沼化の末に撤退というのが歴史の教訓である。アメリカは無人戦闘機を使ったタリバンやアルカイダの幹部の空爆を続けながらみっともなくない形での撤退の時期を探るだろう。
無人戦闘機といえば、今、英仏と中東カタールが武装勢力の支援を行なっているリビア情勢でも、今週(4月18日の週)になってこの無人戦闘機が使われた。この種の無人戦闘機は福島原発の上空の撮影にも使われたが、上空から敵を発見し、爆撃する。遠く離れた場所で無人機を操縦するわけだから、アメリカ側に死者が出ない。
リビアへの介入はもともとフランスのサルコジ大統領の「政治的パフォーマンス」として始まった側面が強い。サルコジは07年の大統領選挙の際に、カダフィ大佐の息子のセイフ・アル-イスラムから極秘の選挙資金を受け取っていたからだ。イギリス側もリビアによるパンナム機爆破事件の容疑者であるアルメグラヒ元将校の釈放をめぐって、ピーター・マンデルソン経済大臣(当時)がジェイコブ・ロスチャイルド卿の別荘で同じカダフィの長男と密会していたことが分かっている。背景には、メキシコ湾の海底油田爆発事件を起こしたイギリスの石油会社であるBPのリビアの採掘権獲得が絡んでいると言われるが、これも英仏がリビア攻撃に熱心な理由のひとつである。
アメリカとしては、イラク、アフガニスタンという投機的であり、なおかつアメリカの戦略的な国益に関わりが薄い分野への関与を避けたいため、今回はNATOを前面に押し出し、その軍事行動については無人機の提供にとどめ、イラク・アフガンで行なった地上軍の派遣は行なわない決意であるようだ。ふたつの戦争と金融危機で低下したアメリカの覇権国の地位を延命させるためには、必要以上の外交的な冒険は他国に押し付けるのがアメリカの戦略である。
同時に台頭する中国に対する戦略は主に国防総省と国務省が担当しており、先日も17日にヒラリー・クリントン国務長官が韓国と日本を訪問したことからわかるように太平洋戦略はヒラリーの担当である。オバマは今年初めに中国の胡錦濤国家主席を国賓待遇で迎えたり、3月半ばにはブラジル訪問を行なったりしたが、ヒラリーが「結界」を張っているので、基本的には国内に押しとどめられている。
<プロフィール>
中田 安彦 (なかた やすひこ)
1976年、新潟県出身。早稲田大学社会科学部卒業後、大手新聞社で記者として勤務。現在は、副島国家戦略研究所(SNSI)で研究員として活動。主な研究テーマは、欧米企業・金融史、主な著書に「ジャパン・ハンドラーズ」「世界を動かす人脈」「プロパガンダ教本:こんなにチョろい大衆の騙し方」などがある。
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