このように、多岐にわたる市場でバブル崩壊が同時に発生した場合、多くの会社が債務超過から倒産に追い込まれる。倒産した会社は破産するか民事再生するかは別として、負債の減免を受ける。これはバランスシートでいえば、資産の部が縮小した分、負債をカットする、ということである。このときに負債のカットを秩序を持って行なうための法的手段が、破産法や民事再生法などなのである。
ただ、唯一異なるのは金融機関である。金融機関のバランスシートがアンバランスになった場合は負債のカットではなく、純資産の強化によって解決する。もちろん一般企業もチャンスに恵まれれば、純資産を増強することによって債務超過を未然に防げる可能性はある。しかし当社の民事再生でそうであったように、市況が一斉に悪くなる状況ではそれも不可能になってしまう。これに対して銀行の場合は、倒産しそうになると政府が公的資金を投入して純資産を強化してくれる。
それはなぜか。いろいろ説明の方法もあろうが、銀行のバランスシートを想起すれば気がつくだろう。
つまり、銀行の企業に対する貸付は、資産の部に貸出金として計上されている。それでは、銀行はどこから金を借りているのか負債の部を見ると、最大の資金源は預金なのである。預金とは、一般の個人や企業が銀行に預ける預金である。もし銀行が倒産したとして、その処理として負債をカットしようとすると、一般個人の預金をカットすることになるのである。預金保険機構で1,000万円まで保護されるなど防護ネットはあるが、防護ネットを頻用すると、保険コストに跳ね返り普通預金の金利など吹き飛んでしまうだろうし、大体1,000万円を越えた部分だけでもカットされるということは、日本では受け入れられそうにない。
私は、マスコミが銀行を攻撃するときの態度をみて苦々しく思うことがある。
マスコミは「個人は解雇や派遣切り、中小企業は相次いで倒産を余儀なくされているのに、銀行だけは税金で救済されるなんてけしからん。それに銀行員の給料は高すぎる」と批判してやまない。もし銀行のバランスシート調整を、負債のカットによって実行したら、庶民の預金がカットされることになると理解していないのであろう。
それはともかく、結果として銀行のバランスシート修復だけは資本注入によって行なわれるのが通例であり、それもやりすぎると政府の軍資金がなくなってしまうため、対象は危機的な状況の銀行に限られる。そして大半の銀行に対しては、儲けさせながら少しずつ損を埋めさせるしかないのである。
横道にそれたが、バブル崩壊に伴う倒産の本質とは市況変動の結果、資産価格が下落してバランスシートがアンバランスになることで事業の継続が困難になることであり、倒産処理とは負債をカットすることによって、バランスシートのバランスを取り戻す活動であると私は思う。
〔登場者名はすべて仮称〕
(つづく)
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