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天国と地獄の狭間~新興デベロッパーの倒産から再出発までの600日の記録 (143)
経済小説
2011年5月11日 07:00

これだけ真剣な話し合いをした結果... 私が予算編成を始めた最初の頃、当社は用地仕入の不足問題に直面した。私は中期計画の達成のために、むこう5年間の用地の仕入と開発のシミュレーションを行ない毎年の必要な用地の仕入高を明らかにしたが、実際の用地仕入は容易に進捗しなかった。これでは中期計画を公表することはできない。そこで開発部門の要員の強化を求めた。しかし現場はなかなか中途採用を行なわない。一方で黒田会長からは、早く中期経営計画を発表したいと催促される。そこで半年ほど経過したとき、私はしびれを切らし、関係幹部を集めてこう切り出した。

「仕入が必要だから強化してください、人件費予算は措置します、と申し上げているのに何で中途採用が進んでいないんですか?」
「今の体制でも十分に月間3件の用地仕入ができるからです。増員は必要ありません」
 企画課長はきっぱりと言った。私は
「それでは、必要な額の用地仕入ができる目処が立ったんですか?」
 と企画課長に詰め寄った。しかし企画課長は
「いえ、立っておりません」
 と答える。

「それでは、増員が必要でしょう!企画課を部に格上げすることについても私は賛成です。あとは、企画部長として、大手デベロッパーから鬼軍曹のような、ブルドーザーのような幹部を中途採用するか、あるいは内部昇格によって部長を登用して若手を増員するかです。仕事は"やりたい"という人に任せるほうがいいですからご判断はお任せしますが、早々に決断をお願いします」
 私は強く言い放った。これに対して江口常務が答えた。
「でも大手から人を採ろうと思っても、そういう人は年収が高いですよね。当社には見合わない。社内にやっかみも出ます」
 幹部たちはのらりくらりと私の要請をかわそうとしている。そんな幹部たちへ苛立ちをぶつけるように私は強く言った。
「かといって、今のままでは成長もないのです!人件費以上の成長を見込むためには、特例で1,000万円プレイヤーを連れてきても止むを得ないのではないですか?社内にやっかみが出るのなら、その人にさせたらいいでしょう!」

 これだけ真剣な話し合いをした結果、企画課長を部長に昇進させることが決定した。江口常務をはじめとする営業幹部には大変な決断だったと思う。この決断の結果、そのあとの当社の成長があったのだから私は江口常務に感謝している。しかし、この件は、幹部の自己保身もしくは現状維持欲求が、企業の発展段階に応じた人材の導入を妨げる結果になっていることを如実に感じさせる出来事だった。

 取締役の長期滞留に加え、社員採用がこのようにいびつな構造となったことで、社内の空気はますます沈滞していった。これに対して黒田社長は、それまでも再三、管理部長に新卒採用への転換を指示していたが、現場の反対のためか、それは実行されていなかった。そこで私が総務・経理担当となると同時に、営業系の取締役の理解を得て新卒採用を実行したのである。

〔登場者名はすべて仮称〕

(つづく)

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