私も倒産回避のため、またそれ以前は、会社の人材力の底上げのためにいろいろな手を打ってきたのはたしかである。しかし、「あのときに社内の不和を覚悟してでも取締役会の体制見直しを進言していれば」、「あのときに摩擦を恐れずに適正な人材の採用と、停滞している社員の配置転換を断行していれば」......と悔いることしきりである。現実には私自身も、組織に所属する一員として会社のなかでの上昇志向に囚われ、社内で大胆な手術が必要と思っても飲み込まざるを得ず、教育研修や話し合いといった漢方薬的処方の途を選択する弱い人間であったことは認めなければならない。
カジュアル衣料専門店のユニクロは、30年前には山口県宇部市内の小さな個人経営の洋品店だった。柳井社長がお父さんから経営を任され、広島への出店を皮切りに全国チェーンへと急成長を遂げるのだが、その過程をある時点まで支えたのは宇部時代からの生え抜きの幹部だった。しかし店舗数は平成6年には100店、平成9年には300店へと急激に拡大し、大規模企業としての組織管理が求められるようになると、宇部時代からの生え抜き幹部が次々と脱落。平成9年に東証2部に上場したときには、わずかに1名であったという。
その1名も、大手商社からスピンアウトしたMBAホルダーの幹部たちに囲まれて、経営会議で飛び交うカタカナ用語についてゆくことができず居心地が悪そうにしていたが、平成11年に東証1部に指定変えになったときには、自ら辞めていったとのことである。
私はこの事例に新興企業の経営陣のあり方を見る。社内に優しく、古参幹部に優しくするのもいいが、そのためには古参幹部の側も大組織の幹部に脱皮していかなければならない。そうしないと会社は現経営陣の器以上には成長できないし、社員や取引先に迷惑をかけることになる。DKホールディングスの場合は古参の幹部の脱皮ができず、私も力不足であったため、古参の幹部に脱皮も代謝も促すことができなかったわけである。
〔登場者名はすべて仮称〕
(つづく)
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